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世界が灰に染まった日 9

「本当は全部埋めてえけど、初めてだからな。今は半分で我慢してやるよ」  男が漸く腰を引いてくれた。まだ奥の壁がジンジンしている感覚はあるけど直接的な刺激がなくなってかなり楽になった。男は先っぽがギリギリ出ない所まで抜いて、そしてまた入れてを繰り返し始めた。初めはゆっくりだったその間隔が徐々に短くなっていって、男の腰の動きが激しくなる。時々押し込まれ過ぎて痛い奥の壁を突かれる事もあったけど、男は約束通りそこを執拗に責めて来ようとはしなかった。ジンジンしていた痛みも消えてきて、身構えていた身体の力が抜けてきた時だ。ズクン、と今まで感じたことのない感覚が、突かれた所から下腹部に伝わった。 「ん……は、ぁ……」 「感じてきたか?」  さっきまで圧迫感と違和感しかなかったのに、中を突かれると腰と下腹部が痺れるような感じになる。 「気持ちいいだろ?」 「や……、な、に……これ……」 「ここがリュカの前立腺。さっき教えた、その一の場所だ」  そんなまさか。俺には関係ないって当てはまらないって思った場所の筈なのに。 「感じてるな、リュカ」 「や、だ、ちが、う……っ」 「違わないだろ?」  嘘だ……。男が指摘する様に掴んだ俺のは、ピンと上を向いていた。ついさっきまでくったりしていた筈なのに……。こんなの違う。おかしい。男にヤられるのなんか死んでも嫌なのに。触れられるのさえ気持ち悪いくらいなのに。それなのに、男に突っ込まれてこんな風になるのは違う。俺は嫌だ。なのにどうして……。 「こんなにして……やらしいな」 「や、め……ああっ」  男が掌でぺニスの先っぽを弄った。尻を弄られる前にされたのと同じこと。けどさっきと違うのは、男が手の腹でそこに円を描くと、ヌチヌチと粘つく水音が尾を引いてついていくことだ。 「ちんぽ突っ込まれて女みてえに濡らしやがって、可愛いやつめ」  ぐしゃっと心の一部を踏みつけられた様な気がした。潰されて、血が通わなくなって冷えていく心とは反対に、より激しさを増して突かれる身体は昂り熱くなっていく。ズクン、ズクンと中が疼く度に出したくもないおかしな声が勝手に口から漏れ出て、耳を塞いだ。それでも逃れられない。 「よかったな、リュカ。お前才能があるぜ。初めてでこんなに感じるなんて……」  耳を塞いだ手を外され、指を絡められる。痛い訳じゃないのに、目の上にまた水が膜を張った。押される度にやって来る波に抗いたくて、唯一自由に動かせる首を無茶苦茶に振ったら、目の上に溜まってた涙が飛んだ。 「中でイクのを覚えろ」  男が前屈みになった。同時に俺の腰もグッと持ち上がり、ずっと突かれていた場所へ加わる刺激がより強くなった。その強烈な疼きと痺れから逃れたくて腰を下ろしたいのに、おかしな力が入って勝手に持ち上がってしまう。 「女とのセックスじゃあ満足できねえ身体にしてやるからな」 「や、だぁっ、ア、ひ、っあぁあ……ッ」  変になる所を突かれまくって、さっき飛んでなくなった涙の膜がまたぶわあと張った。腰が弓形に持ち上がる。ぎゅうっと爪先まで力が入って、息が止まる。そして目の前が真っ白になった瞬間、ビクンビクンと魚みたいに身体が跳ねた。きゅううと尻の中が狭まって、粘膜が男のを締め付ける。その先っぽの硬い出っ張りが敏感な所を圧迫して、その刺激にもまたピクンと小さく身体が跳ねた。 「リュカ……」  切なくなる様な声で名前を呼ばれたと思ったら、目を向ける暇もなく唇が降りてきた。汗だくで息の荒い男が、啄むようなキスを何度も繰り返す。  顎がガクガクなって、目の前がまだチカチカしている。身体は完全に脱力して、指先ひとつ動かせそうにない。まだ繰り返されているキスから逃れようという気にすらなれない。  街を徘徊する虚ろな廃人。まるで自分がそれになってしまったみたいに感じた。身体は鉛の様に重くて、頭はふわふわしている。もしかしたら、こいつらはこうやって街中のゾンビを作り出しているんじゃないだろうか。尻の中のスイッチを押して。そんな有り得ない事を、バカになった頭で取り止めもなく考えていた。

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