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世界が灰に染まった日 10

 互いに荒かった呼吸が整う頃になって漸くキスをやめた男が、顔を上げて視線が交わるや否やなぜか申し訳なさそうに言った。 「悪い。間に合わなかった」 「ん……っ」  ずるんと中から男が抜けていく。ただそれだけの刺激にぞくぞくして声を上げてしまったことが恥ずかしくて、男の視線から逃れるように身体ごと顔を背けた。 「な、なんだ……?」  まだ身体は怠いけど、見られたくない一心で身体を横にしたら、その拍子に尻の中から何かがとろとろと溢れ出てきた。入れる前に塗りたくられた香油か?にしては量が凄い気が。首を傾げていると男が顔を近付けてきた。 「わかんねえのか?っんとにガキだな。精液だよ。お前の中にぶちまけたのさ」 「なか、に……」  意味が少しずつ分かってくるに従って、背筋が寒くなった。 「中で出したのかよ!くそっ、気持ちわりい」 「お前、客の前でそんな口聞くんじゃねえぞ」 「なら何て言うんだよ」 「男はみんな中出しが好きだからな。好き者みたいにおねだりするのさ。そうだな、孕ませてください、とでも言っておけ」 「は、はら……っ」  あまりの言葉に絶句した。そんな台詞、死んでもいいたくない。 「少しずつ覚えていけばいい。って訳で次はフェラチオの練習でもするか」 「ふぇらちお?」 「しゃぶれって言った方が伝わるか?」  それは、言われた事が何度もあるから、分かる。ちんこを舐めろってことだ。 「なあもう終わりじゃだめなのか?」  結局変態どもの最終目的はケツに突っ込むことだろ。もうそれはやったんだから充分じゃないか。 「本番はうまくやるから」  男が答えないから、悩んでいるのかと思い更に言い募った。本気でもう解放して欲しかった。 「じゃあ答えろ」 「あ?」 「金は何に使った?」 「それは……」 「答えねえなら、言いたくなるまでヤるしかねえなあ」  男がいつの間にかまた復活していたペニスを掴んでまた俺の股の間に入り込んできた。 「おい待て。次はしゃぶるんだろ。それはもうやめてくれ」  勿論しゃぶるのも嫌だったが、また突っ込まれて頭も身体もオカシクされるのはもっと嫌だった。今度こそ本当にゾンビにされないとも限らない。だったら口でしたほうがマシだ。 「フェラチオはまた今度教えてやるよ。今日はとことんお前を虐めつくしてやる」 「うあ……っ」  ズプリ。初めての時とは比べ物にならないくらいスムーズに、男のモノが中に入っていく。あんなでかいのが。信じられない。俺の穴が開きっぱなしになったらどうしてくれるんだ。 「くっ、てぇ……いてえよ……っ」  また、奥の行き詰まりを叩かれて鈍い痛みが広がった。 「我慢しろ。次はこの奥を責める」  さーっと血の気が引いた。まさか。無理だ。そこは行き止まりだ。 「むりだっ!そん、なの、っこわれ、ちまう」 「そんなヤワじゃねえだろ」 「がっ、あ……ま、じで、むり……ッ」  やめてくれと何度訴えても、男は奥を突いてくる。さっきよりも強い力で押して、無理矢理壁の奥に侵入しようとしてくる。痛くて痛くて生理的なもので目の前が滲んできた。 「力いれねえで中を開け」 「っんなの、わ、かんねぇ、よッ」 「いきむ様にしてみろ」 「あ、う……わ、かんねぇ……っ」  男が強く腰を打ち付ける度にズクズク痛むこの苦痛から解放されたくて言われたとおりに力を抜こうとしてみたりいきんでみたりしようとするが、痛すぎて自分の身体の使い方すら不自由でままならない。 「ぐ、がぁ……っ、も……っ死ぬ……」  ついに、目の上に並々張っていた水が零れ落ちた。それを情けないとも、もう思えないくらいにいっぱいいっぱいだった。このまま俺は尻の中突き破られて死ぬんだ。そう思った。それなのに、そんな気も知らずに男はくすくす笑い声を上げた。ムカつくのに、それを睨み上げる力ももう残っていない。 「じゃあ死ぬ前に答えろ。金は何に使った?」 「言え、ねぇっ……それ、だけは、死んでも、言わねえっ!」  自分の身がどうなっても、ニナの事だけは絶対に話すもんか。男の俺にだってこんな事してくる奴だ。こんな野蛮な奴にニナの存在が知られたら、何されるか分かったもんじゃない。ニナは絶対に俺がこの手で守るんだ。 「そうか。じゃあせいぜい苦しめ」 「ぐぅっ、ああ……ふう……く、うう、ぐうう……」  そうだ。俺がこの手で守る。その為には俺は死ねない。ニナは一人では生きていけないんだから。  突き破られないために、息を吐いてさっき男に言われた事を精一杯に実践した。力を抜いて、いきむ。そんな相反する動きを、死にそうなほどの苦痛の中試行錯誤しながら。

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