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世界が灰に染まった日 11

 その時は突然やってきた。 「ひっ……!!」  ぐぷん、と初めての感覚を知覚したのを最後に意識が途切れた。 「リュカ、リュカ……」  俺を呼ぶ声がする。股の間がチクチクしてくすぐったい。 「あ……?」  頭を起こして下腹部を見下ろすと、半分出ていたはずの男のモノが見えない。股の間がチクチクしているのは、もしかして男のたっぷりと茂った陰毛がぴったりとそこにひっついているから?まさかとは思うが、アレが全て俺の中に納まった……のか? 「入った、な」 「う、そ……」  そんなバカな。あんな長いのが、全部入るなんて。突き破られた……?けど、さっきまであった痛みは鳴りを潜めている。それどころか、腹の中が、男を包み込んでいる粘膜が勝手にぐにぐにと動いて下腹部が切なく疼く。何だ、この感覚。 「動いて欲しくておねだりしてるのか?」 「ち……ちがうっ!」 「ぎゅうぎゅう締め付けやがって。やっぱりお前はどうしようもないエロガキだな」  言い終えた男が腰を引いた。男が言うように無意識に締め付け絡みついていた粘膜が男のと一緒に引き摺られていく。 「ううぅ……っ」  その感覚に下腹が震えて、つま先にぎゅうっと力が入った。 「ア……ッ」  押し込まれると、またぐぷんとなった。顎が上がって声が裏返る。 「ここ気持ちいいな」  引いて、押して、ぐぷんとされて、引いて……。それを何度も繰り返される内、あ、と意味を成さない声しか上げられなくなった。口がぱくぱくと無意味に動いて、涎がダラダラ零れ落ちる。ビクンビクンと短いスパンで身体が痙攣して、さっき初めて知ったイクという感覚が延々続く。さっきとは違う意味で、死ぬ、と思った。 「天国はどうだ、リュカ」  吸い込んだ息がうまく吐き出せない。男がだらしない顔で何か言っている。口は相変わらずぱくぱくとしか動かせなくて、言葉を紡げない。目の前がチカチカする。身体がまた痙攣して大きく跳ねた。意識が遠のく───。 「───リュカ、大丈夫か、リュカ」  ぼんやりと視線を動かすと、心配そうな男の顔があった。 「ちょっと無理させすぎたな」  また、少しの間意識を手放していたらしい。変わらず痺れている身体の感覚から推察するに、自失していたのはほんの僅かな時間だろう。ずっと詰めていた息をふーっと吐く。少し、胸が軽くなった気がした。 「なあリュカ。まだいいか……?」  男が申し訳なさそうな顔で言った。まだやるつもりなのか。信じられない。どうなったら満足するんだ、こいつは。 「奥までは入れねえから」  そういうのは絶対嘘って相場が決まってる。思ったけど抵抗する力もなく黙って身を委ねるしかなかった。  予想に反して、男の言ったのは嘘ではなかった。奥の痛い壁まで当たらない程度に、つまり、半分だけペニスを突き入れてきた。その位置で短い抜き差しを繰り返されると、敏感になっている腹の中から堪らない痺れと疼きがやってくる。 「く、うぅ、あ、あ……」 「気持ちいいか、リュカ」 「ん……くぅ、んん」  今日まで知らなかった感覚でも、それが男の言う「気持ちいい」という感覚だってことは流石に理解した。男のモノがズルズルと粘膜の壁をこする度、気持ちいいと教えられた箇所を捏ねられる度、下腹部から全身までゾクゾクする。 「可愛いなあ、お前」  吐息がかかる位置に男の顔があって、しげしげと顔を眺められた。 「なあ、俺はシダール。シダだ。名前を呼んでくれ」 「ん……シ、ダ、っ」  満足そうな笑みの形になった男の唇が下りてきた。啄むようにちゅ、ちゅと食まれて、何度めかににゅるんと舌が入ってきた。 「ふ、んん、ん、ふぁ……」  気持ち悪かった筈の舌を絡ませ合う行為がどうしてだか気持ちいい。男のに擦られ続ける中が、突かれる度に押される所が、そして無理矢理広げられてヒリヒリしている穴すらも気持ちいい。 「ん、あ……、あ」  きゅんきゅんと快感を伝えてくる身体が切なくて、無意識にシダの逞しい腕に手を絡めてすがり付いた。痛い訳じゃないのに、目の前が滲んで歪んでいる。 「リュカ、リュカ……」  じゅぶじゅぶ。抽送の度に香油とシダが出した精液が混ざり合って結合部で泡立ちながら溢れだす。シダが俺を呼ぶ声。俺の口から出るみっともない矯声。二人分の荒い息遣い。その全て、こんなもの、俺は知りたくはなかった。知らないままでこの生を終えたかった。けれど、もう後戻りはできない。何も知らない純真で無垢な子供には、もう戻れないのだ。 「あ、あああ、う、く……い、くぅ……ッ!」  イクときはそう言うんだ。シダに教えられた通りにそれを口にした。直後に、ビクンビクンと今日何度目か最早分からない痙攣をして、体内のシダをぎゅうっときつく締め付けた。 「くっ……」  唸り声がしたかと思うと、まだきゅうきゅう締め付け続けている粘膜を引き連れて中のモノがずるんと出て行った。尻にぽっかり穴が開く。熱いシダのモノの代わりに冷たい空気が入り込んできてスースーする。その代わり腹の上には熱い液体が降ってきた。勢いよく出ていったシダのペニスがピクンと上下する度に、その先っぽから白くて熱いものが迸る。青臭いにおいがした。これが精液なんだ。 「最高によかった」  射精を終えたシダが覆い被さってキスしてきた。ちゅ、と音を立てる、軽いキス。舌が入ってくる気配がなくてほっとした。もう流石に終わりだろう。終わったのなら、もう用はない。さっさとこんな場所からおさらばしないと。……それなのに、眠気が凄い。怠さもヤバい。足の指先を動かすのすら億劫で、立ち上がるのが至難の業に思えてしまう。目蓋が重くて重くて、何度抗っても落ちてきては一瞬意識を失いかける。 「朝まで休んでいけ。俺も寝る」  髪を撫で付ける様に繰り返し頭を撫でられた。その内ついにどう足掻いても目蓋が開かなくなってしまう。この世界では、誰も信用しちゃいけない。無防備な姿を晒すのもダメ。常に一定の緊張感と警戒心を持って生きる。俺みたいなガキがスラムで生き抜いていく為に自らに課した戒めの全てを、今破ろうとしている。ダメだって分かっているのに────。

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