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世界が灰に染まった日 13

 ───あの時、その話がいつまで有効なのか、きちんと期限を決めておくべきだったと今は後悔している。まさかあれから5年経ってもまだ呼び出され続けているなんて、あの頃は想像もしていなかった。  3年前、ニナがいなくなってからは金の援助は受けていないし、その頃には掏りもやめていた。ガキから成人に近づいたお陰でまともな働き口がチラホラ見つかる様になったからだ。  女からの誘いを受ける様になったのも、ちょうどその頃だった。初めは自暴自棄になってやった事だったが、女と寝て金を得ることはシダに抱かれるよりも精神的にも肉体的にも楽だった。事あるごとに「もう女じゃ満足できないだろ」とニヤけた顔して言ってくるシダと決別するいい機会だとも思った。貴族の女を選んだのは、スラムの知り合いと寝るよりも後腐れがないのと、貴族から得たい情報があったからだ。欲しい情報はこれまで得られたことはないし、女と寝ることでシダが俺を手放すことも結局なかったが。  俺が未だにシダの誘いを断れないのは、どう考えても貰った分と払った分が全く吊り合っていないからだ。ニナがいなくなるまでの丸々2年は薬代と治療費をシダに頼りっぱなしだった。こいつからの呼び出しは一月に一度あるかないかだったにも関わらず、ここスラムで生きる人間としては莫大に思える金額を援助して貰った。シダには恩がある。義理がある。だから付き合う義務が俺にはある。  ───というのも全て外面の建前で、俺はただ自分自身を罰したいだけなのかもしれないけど……。 「あの日、俺はお前に惚れたんだ。気高く清廉なお前の魂に」  呼び出される回数が少ない分、一晩の内容はうんざりするくらい濃い。絶倫かと思うほどに、出しても出しても勃つこいつのモノを見て、何度、もう勘弁してくれと思ったことか。 「しょんべん臭えガキ相手におっ勃てる変態が、なに崇高な事言ってんだよ」 「そうだったな。あの頃のお前はしょんべん臭えガキだった。その癖バカみてえに色気だけはあったな。俺はそれに惑わされただけだ」 「っけ、言ってろ」  ああ言えばこう言う。面倒くさくなって土俵を下りた。シダを言い負かせばこの関係が終わるって言うなら意地でも食らい付くけど。 「リュカ、まだ足りねえよ。もう一回しようぜ」  もう一回?もう三回の間違いじゃないのか?思ったけど、自分の立場を不利にする事はわざわざ口にしない。こいつの事だから、「三回してもいいのか?」ぐらい言ってきそうだ。  そう言う訳で何も答えずにいると、ちゅ、ちゅ、と音を立てて唇を落とされた。なあいいだろ?機嫌でも取るみたいにそう囁きながら。  買われてる立場の俺に断るって選択肢がないことはシダも当然承知の上だ。そうじゃなきゃ、キスから顔を逸らす相手の股の間に無理矢理入り込んだりはしてこない。 「中には出すなよ」 「悪かったって。次は間に合わせるから」  こいつのそれは7割は失敗する。腹が痛くなるから嫌だって言ってるのに、もう既に2回中2回中出しされている。 「く……、ふ……」  なるべく痛みなく受け入れる為の力の抜き方は、5年もこんな事をしてれば嫌でも身に付いてしまう。男に抱かれるのが本意でなくても、身体だけは受け入れ体勢を作らなければ、痛い思いをするのも苦しむのも全て自分だ。 「入ったぜ……奥まで……」 「あ……ああ、あ……」  ただ入ってきただけ。途中にある壁を抜けて、その奥を一度コツンと叩かれただけだ。それだけで俺の身体はビクンビクンと痙攣した。シダが2回イくまで散々そこを突かれてイかされて死ぬほど敏感になっているせいだ。そう、思いたい。 「イキっぱなしかよ。えろ……。本当にお前は堪んねえな……」  シダがゆっくり腰を引いて、押し込む。押される度に俺のぺニスの先から薄い精液が押し出されて、腹の上に糸を引いている。 「可愛いぜ、リュカ」  キスをされる。もう顔を背ける意思すらない。頭の中真っ白になりそうな程の快楽に飲み込まれたら、舌を吸われようが口の中を舐め回されようがされるがままだ。 「気持ちいいな、ここ」 「か……は、ぁ……あ、あ……」 「リュカはここが好きだな。お薬要らずで飛んじまうんだから」 「ぐ……か、は、あ、ああ……」 「リュカ。リュカは俺のオンナだよな?俺以外の奴にここを触らせてねえよな?」 「があ……く、は、ぅ……あ……」 「あの坊主とは本当に何でもねえんだろうな。お前が女だったらとっくに孕まして子供産ませてんのにな……。なあリュカ、お前はどうしたら俺のものになる?もっともっとお前が欲しい。俺だけのリュカにしてえよ───」  何か請われている。それぐらいしか分からない。意識が完全に飛ぶ寸前、一瞬クリアになった頭に響いてきた声。  ───アイシテル。  戯言を。スラムいちの金と権力を誇るシダが、男も女も子供も食い荒らしていることは知っている。そんな奴が未だに俺なんかに拘っている理由は謎だが、愛だの恋だの、そんな浮かれた理由でないことは確かだ。こいつはただ肉欲に溺れているだけ。こんな穢れたものが愛であって堪るかよ。

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