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この感情の名前は 1

 その日も、朝目覚めると隣のベッドにリュカがいて、まだすやすやと眠っていた。こうしてぐっすり眠ってるリュカを見るのは二回目だ。一回目は、「シダ」ってリュカが呼んでた大男に呼び出されて出かけた次の日の朝だった。もしかしたら昨夜もあの男の所に……。  どうしても嫌な考えしか浮かんでこないからキッチンに立った。朝ごはんのスープを作ろうと思い立った時に、鍋に中身が入っていることを思い出した。リュカはああ言ったけど、もしかしたら早めに帰ってくるかもしれない。そう思って、夕飯にキャベツのスープを2人分作ったのだ。リュカと一緒に食べたくて、僕も昨夜は手をつけなかった。  蓋を開けて中を覗き込む。キャベツの色味が少し悪くなっているけど、おかしな臭いはしていない。今朝はこれを温め直して食べよう。 「あれ……?これは……」  水汲みにでも行こうかと振り返った時、食卓テーブルの上に見慣れない白い束が置かれているのに気付いた。手に取ってみる。ここでは見慣れないそれは、僕にとっては見慣れた、有り触れたものだった。 「紙だ……」  僕の知っているものよりも少しだけ黄ばんだそれは、間違いなく紙だった。その束の隣にはすぐ使えるように削ってある鉛筆が二本置かれている。もしかして……。思い至った時には、もう既に僕は行動を起こしていた。 「リュカ!ありがとう!」  叫びながら僕がしたことは、眠っているリュカに思いっきりダイブするという子供じみた行動だ。重かったはずだ。ぐっ、と唸り声を上げたリュカが眉を潜めながら目蓋を開けた。まだ眠そうにとろんとしている寝ぼけ眼が愛おしい。 「ルーシュ……?」 「紙と鉛筆!リュカが買ってきてくれたんでしょ?嬉しいよ!すごく嬉しい!アンリも絶対喜ぶ!本当にありがとう、リュカ!」 「ああ……。うん……分かったから。……重い」  リュカの声は寝起きだからだろうか、少し掠れていて、そしてやっぱりまだ眠いんだろう。いつもよりも不鮮明でぼんやりとしている。  僕は跨っていたリュカのお腹から下りると、リュカの枕元で屈んだ。リュカの顔を傍で見たくなったからだ。すぐ目と鼻の先で見つめる僕に、リュカは何も言わない。ぼーっとした瞳の焦点がだんだん合わなくなってきて、それからゆっくりと目蓋が閉じられた。  すーすーと規則正しい静かな寝息が聞こえてくる。前髪が下りてることについて、深く考えるのは止そう。それにしても眠っている姿はやっぱり無防備だ。いつもより幼く無垢なその姿はまるで天使みたいに見える。  あんなに格好良くてこんなにキレイで可愛いなんて反則じゃない?起きたての舌っ足らずの声、可愛かったなあ。そんな声でルーシュ、なんて僕を呼ぶんだから、本当に反則…………って、もしかして。リュカが僕の名前を呼んでくれたのって初めてだったんじゃ───。  気づいた途端、ぼっと火が付いたみたいに頬が熱くなった。リュカに名前を呼んでもらえた。ただそれだけで僕は────。

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