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へっぽこプランス
「前から思ってたけど、この主人公、プランスの癖になんかあんまりカッコよくねーな」
「え、そ、そう?」
「うん。後で仲間になる奴のがカッコいい。こっち主人公で書き直した方が面白くなるんじゃない?」
「確かにその子は格好いいよ。けど、いーの!アンリ、面白くなくてもいいって言ったでしょ!」
「う……」
今日は天気が良くて風も穏やかな気持ちのいい日だったから、僕とアンリは青空教室としけこんでいる。足許ではハンナがお絵描きをしたり花を摘んで遊んでいる。
僕が夜に書いた物語をアンリが読解する。分からない単語の読みや意味、書き言葉ならではの文法や表現なんかは都度僕が助言しながら。最近ではそれがアンリの勉強法になっていた。アンリは家に帰ると僕の書いた面白くない物語をハンナに読んで聞かせているらしいから、復習もばっちり。アンリの読み書き能力はぐんぐん伸びて、最近では紙の切れ端に日記みたいなものを書く様になってきた。だから新しい紙はアンリの日記として使おうかって提案しているのだけど、アンリは切れ端でいいと言う。まだ長い文章は書けそうにないから、僕の話の続きを読みたいって。
「これさ、結末はどうなるんだ?」
「え、結末?……それを知っちゃったら流石につまらないんじゃない?」
いくら僕の書く話が面白くなくてもさ。
「そういうもんか。けどこのへっぽこプランスに『崇高な夢』が叶えられると思えねえんだよなあ」
「アンリ、先が気になってる?」
「うん」
「てことは僕の話をそれなりに楽しんでくれてるって事だよね。嬉しいな」
「まあそうだな。けどやっぱ主人公はこっちのカッコいい兄ちゃんの方がさあ…………」
アンリがぶつくさ文句を言ってるけど、今さら主人公変えるなんて無理だし、へっぽこプランスで我慢して貰おう。それにしても結末か……。さっきは誤魔化したけど、実は僕自身まだ決めてない。主人公が思い描いている夢を叶えられるかどうかも、未だ未知数だ。僕も、唯一の読者のアンリも納得できる結末を描けたらいいのだけれど。
「あ……」
その後ものんびり、ぽけーっと僕の書く物語について談義していたのに、唐突にアンリの表情が強張った。アンリの視線の先に目をやると、大きなシルエットの見るからに厳つい男が真っ直ぐこちらに向かってきていた。この集落では見たことのない顔。けど、僕はあの男を知っていた。
「アンリはハンナを連れて家まで走って」
「え、けどルーシュは……!?」
「僕は大丈夫だから。さあ早く!」
アンリは躊躇いを見せつつも迅速に行動した。ハンナも突然の緊迫した空気に驚いただろうに泣きもせず大人しくアンリと手を繋いで走ってくれた。スラムの子供達はやはり賢い。自分が一番に守るべきものの優先順位と、自分に今出来る最善を瞬時に判断できる。本当に、文字の読み書きくらいしか僕に勝てる所はない。
僕は家の前で足を止めた大男の前に立ち塞がった。僕まで家に逃げ帰って、万が一にも逃げ出したアンリ達を追われる訳にはいかないと思ったのだ。
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