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夜の街 1
「はえー、あのへっぽこプランス、ロワになっちゃったよ。大丈夫かあ?」
「大丈夫だよ。ほら、かっこ良くて頼もしい仲間がヴァレとしてロワを支えてくれるから」
「まあ、そっか。でさ、ヴァレってなんだ?」
「ロワの一番傍にいて、いつも支えてくれる人のことだよ」
「ふーん。なんか、父ちゃんと母ちゃんみてーだな」
「え、そう?」
「父ちゃんと母ちゃんも言ってるぞ。助け合って生きるんだって。オレにもたまに言うんだ。心から信頼できて、支え合える人を見つけなさいって」
「そうだね。そういう意味ではロワにとって彼は心から信頼できる存在だよ」
「けどな、知ってるか、ルーシュ?」
「何を?」
「男同士は結婚できねえんだぞ」
アンリが得意気にウインクをした。
「そ、そんな事僕だって知ってるよ!」
「まあこの話はルーシュの夢物語だからな。何でもいいけどさ」
「だ、だから、この二人だって結婚したんじゃないよ」
「けどこのロワ、絶対ヴァレの事好きじゃん」
「え、そ、そんな風に見える?」
「そうだよ。だってここさあ、宝物をプレゼントして国についてきてもらう所。これって、プロポーズってやつじゃん」
「プロポーズって、そんな……」
「うちの父ちゃんも母ちゃんにプロポーズする時、代々受け継がれてきた指輪を贈ったんだ。オレが大きくなったら譲ってくれるって。オレもいつかこんな風にプロポーズとかすんのかなあ?」
子供のアンリに読ませるものだ。恋愛ものではなく、冒険ものを意識して描いたつもりだったけど、作者である僕の願望が漏れ出てしまったのだろうか……。アンリが家に帰った後、こうして読み返してみると後の王様となる王子と後の従者となる青年は、アンリの言う様に物凄く近しい間柄として描かれている。少し気恥ずかしくなるくらいに。
そう、この物語には僕の夢が詰まっている。
奴隷制度の撤廃、腐敗した元老院の刷新、身分に依らない新しい開かれた政治、貧富の差の解消と身分制度の見直し、そして、国に腐敗させられ廃れてしまった町の再興。
今の僕が描く『崇高な夢』を全て叶え、その隣に初恋の相手を従えて。現実はこんな風にうまく行かないことは知っている。こんなの所詮夢物語だって。けど、全てじゃなくても僕には叶えなければならない事がある。最低限、僕が知ることのできた悪はどれだけ時間がかかろうと正したいと思っている。それに、初恋の人、リュカのことも……。
*
「飲みにでも行ってみるか?」
その誘いは唐突だった。
いつもの様に、僕が物語を書く傍らでリュカが文字の練習をしていた時の事。ちょうど、新しい紙が必要になったタイミングが重なった。僕は新しい紙を。リュカはアンリの使った後の紙を取ろうと伸ばした手が触れた。刹那、互いに互いの顔を見合う。不意打ちで無防備なリュカの綺麗な薄桃色と視線がかち合い、どきりと胸が跳ねた。
「わりい」
視線を逸らして引こうとしたリュカの手の甲を、僕は思わず握っていた。無意識だった。リュカの体温が離れていくのがさみしい。そう思っただけなのに、いつもリュカ不足を感じてる僕の身体が勝手に動いていた。
時が止まったかに思えた。リュカも僕も微動だにしない間が数秒はあった。今こっそり離せば大事にならないかもしれない。そんな事を思っている内にリュカが目線だけを動かして再び僕を見た。訝しむようなその視線に、僕は弾かれた様に慌てて手をよけた。
「ご、ごめん!僕ってば何やってんだか、あはは……」
何一つ、誤魔化しきれてない。もう、本当に何やってるんだ自分。どんな反応されてるのか確認するのが怖くてリュカの顔が見れない。俯いたまま赤くなったり青くなったりしていたら、リュカが唐突に言ったのだ。「飲みにでも行くか?」って。
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