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君がすき 2

 最後まで言ってしまってから、はっとした。これは言い過ぎた。まごうことなき本音ではあるけれど、こんな、リュカの上に馬乗りになった状態で当の本人にそれを伝えるのはあんまりだって。けど、リュカはけろりとして言った。 「……それも、悪いとは思ってるんだぜ。お前の性欲、発散できる機会がねえもんな」 「そういうんじゃないよ、僕はリュカがすきだから、」  リュカの人差し指が僕の唇にそっと添えられた。それ以上言うなと言外に伝えられている。どうして。僕が一番伝えたいことなのに。 「後悔するぜ。初めての相手が男なんて、そんなの悲惨だろ」  リュカがすっと目を細めた。その瞳に誘うような色を感じて、熱に浮かされたみたいに頭の奥がくらついた。 「後悔なんてしない、絶対に。リュカはこんなにかっこよくてキレイなんだから」 「キレイ?綺麗なのは、どっちだよ」  リュカが突然上体を起こして、さっきキスした時みたいに顔と顔が近づいた。背中にリュカの腕が回され、胸がどきんと跳ねる。思わずぎゅっと目を瞑った時だ。身体がぐるんと回転した。びっくりして目を開けた時には、さっきまでと上下が入れ替わっていた。上に乗っていた筈の僕は仰向けに転がされて、リュカを見上げている。 「抱いてやろうか、王子サマ」  二つの意味でどきりとした。リュカの言葉と瞳に明確に性的な意図を感じたのと、リュカの使った呼称に。けど、知られている筈はないのだ。リュカにあの物語が読める訳ないんだから。きっと、僕が何もできない、何も知らないことをそう揶揄しているだけだ。   「リュカ、僕は……」  妖艶な微笑に見下ろされて頭が思考停止しそうになる。期待と欲望に堕ちていきそうになる中、それでも僕は最後の理性で葛藤していた。だって、僕の恋心がリュカに受け入れられたわけじゃない。それはまだ勘違いってことにされているんだから。そんな状態でリュカと関係を持つのは間違いだって、理性では明確に分かっていた。けど───。  僕の迷いを蹴散らすかの如く、リュカの薄い唇が下りてくる。想っている相手からそうされて、抵抗なんてできる筈なかった。  そっと触れ合ったリュカの唇はいつも高めの体温と違って少しひんやりとしていた。さっき一瞬された様に上唇と下唇をちゅ、ちゅ、と優しく食まれて、頭の奥がくらくらする。  気づけば、僕もリュカの唇に同じことをしていた。力加減も分からないまま、見様見真似でリュカの唇に吸い付く。キスって唇を合わせるだけのものだと思っていた。けど、これが本当の、大人のキスなんだ。時々互いの口からちゅ、と音が鳴るのが物凄くえっちだ。気持ちいい……。  うっとりと唇を啄み合っていたら、ふいにリュカの舌がぺろりと僕の唇を舐めた。びっくりして一瞬固まってしまったけれど、すぐに理解した。そうだ。ここには唇以外にも触れ合わせられる所があるんだ。柔らかくて熱くて敏感な内側が。  触れたい。リュカの内部に。濡れた舌。あかい粘膜。欲しい……。 「んっ……」  リュカの口から鼻にかかった声が漏れる。  本能のままにリュカの咥内に侵入した僕の舌は、訳も分からないままリュカの中を貪るように動いていた。どこをどうすればいいのか知らない。けど、リュカの中に入っているんだというクラクラするほど興奮する事実と敏感な粘膜同士が触れ合う直接的な快感に無我夢中だった。  リュカの舌は、無茶苦茶に動く僕のそれをあやすように慰めるように受け入れてくれて、時々器用に僕の舌を舐め上げる。僕は腕を伸ばしてリュカの後ろ頭を抱き寄せた。もっと深く繋がりたかったのだ。息継ぎの度に、口づけの角度が変わる度に漏れ出す互いの吐息交じりの声が頭の奥を痺れさせていく。理性がどろどろに溶かされ、目の前のリュカを貪ることしか考えられなくなっていた。  息が上がってやむを得ず唇を離した後も、吐息が交じり合う距離で視線を絡ませ合った。リュカの薄桃色の瞳にいつもの冴え冴えとした涼しさはなく、赤く染まった眼尻に縁取られぼんやりと僕を見下ろしている。リュカの頬も熱が籠って上気しているのかほんのり赤い。  ───リュカはこんなにかわいくてえっちだったんだ。  僕が想像していた何倍も、何十倍も、実際のリュカは魅力的で妖艶だった。  欲しい。触れたい。見たい。知りたい。リュカの全てが、欲しい。

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