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命の重み 1

 リュカの僕に対する態度は、あの夜が本当は幻だったんじゃないかって思うほどに以前と変わらなかった。変に意識してぎくしゃくしてしまうのは僕の方ばかりだ。  リュカに触れてしまったら、あの夜を思い出してまた手が伸びてしまう気がして迂闊にリュカに近づけない。けど、例え近付かなくても、何気ない会話の最中にも僕はたびたびリュカの艶姿を脳裏に描いてしまって、そうなるとリュカの目すらまともに見ていられなくなる。リュカはそんな僕とは対照的に前と同じ距離感で接してくるものだから、僕は自分の衝動を抑えるのに苦労している。  リュカは本当に何一つ変わらない。時折夜の街に出かけて行くのも前と変わらない。僕は気付いていた。リュカが夜に出かける目的が、女の人を抱く為ではないという事に。リュカが欲しているのは、その行為の先にぶら下がっているお金だった。  リュカが夜に出かけるのはいつも家の食材が尽きかける頃で、出かけた後は食材が潤ったし、その朝は必ずパンを食べさせてくれる。女の人を抱いてお金をもらうというのはやっぱり僕としてはピンと来ないけど、リュカくらい美しい人なら、お金を払ってでも一夜を共にしたいと思う女の人がいても不思議ではないのかもしれない。 「お前、力ついてきたな」  薪の束を悠々と持ち上げる僕を見てリュカが感心した様に言った。今日は薪割りの仕事だった。冬は薪の需要が増すためか、最近は立て続けに仕事があって僕としては嬉しい。リュカにはリュカの仕事があるから毎回一緒ではないけれど、そうでなくても集合場所まで必ず送り届けてくれて、今そうしてくれてるみたいに帰りも迎えに来てくれる。  リュカが安全だと太鼓判を押す仕事なだけあって、仕事仲間はみな気のいい人ばかりだった。雇い主の材木屋が素行のいい人物を厳選しているらしい。 「リュカ、お迎えご苦労さん」 「ああどーも。また声かけてくれ」 「おう。ルーシュはお前に負けず劣らず真面目だからな。助かってるぜ」  荷馬車の材木屋とリュカが会話をしている傍で、僕は持ち帰る薪を厳選していた。貰えるのは二束と決まっているから、なるべく沢山括られているものを選びたかった。一つ一つ持ち上げて重さを確認する。あ、これが一番重たいかも。 「でかいの選んだな。大丈夫か?」  話を終えたのだろう。リュカが僕の傍らに立って、適当に選んだ薪の束を両手に持ち上げた。 「あれ?リュカも?」 「ああ。お前の働きぶりに気をよくしたらしくて、俺も持って帰っていいってさ」 「わあ。嬉しい」  僕一人の働きで二倍分の薪を貰えたってことだ。この仕事で得られるのはお金ではないけれど、薪だって生活必需品だ。その分の出費が減れば、リュカが本職以外の事でお金を稼がなくてよくなるかもしれない。  実際、僕の薪割りの仕事が増えてから今までの間、リュカは夜出かけていない。毎日今日か今日かとびくびくしてはいるけれど、昨日も一昨日も、ここ最近ずっとリュカを見送る辛い夜は来ていない。 「お前ほんと、ここに来る度に成長してんな」 「えへへ」  リュカと並んで歩いて帰る途中、またリュカが感心して言う。僕だって自分が秘めていた可能性には感心している。スラムに来た頃はひ弱だった腕も前より太くなったし、薪割りは来る度に上達している。初めて来た時は薪を持ってふらついて歩いていた帰路だけど、今はそれに斧も加えて持っても余裕で歩けているのだから。 「図体もでかくなりやがったから、どっちが保護者かわかんねえって材木屋に笑われちまったぜ」  リュカが肩を竦めた。恨めしそうな口調に反して、顔は満足そうに笑っている。 「じゃあ僕、もう一人でここへ通えるかな?」 「それはまだ早い」  そうだろうか。リュカの家からここまでの道のりも、注意して歩かなきゃならない危ないエリアも覚えたし、行ける気がするんだけど、リュカって結構心配性だな。けど、お言葉に甘えちゃおう。リュカの負担にはなりたくないけれど、こうしてリュカと一緒に歩く時間がなくなるのはさみしいから。

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