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命の重み 2
一番賑わっていて、一番危ないエリアに入ってすぐだった。
「リュカじゃねえか」
これはいつかの再現だろうか。こんなデジャヴュいらないんだけどな。
「何か用」
「だから、用がなくたっていいだろ、別に」
「ふん」
仲間を引き連れたシダが、僕を一蹴してから再びリュカに視線を留めた。
「また二人で仲良く薪割りかあ?」
「なんか文句でも」
「んな汗水垂らさねえでも俺が養ってやるっつってんのによ」
「必要ない」
「相変わらず連れねえなあお前は」
「ねえリュカ、もう行こう」
シダがリュカを見る粘っこい目が嫌で嫌で仕方なかった。痺れを切らして言った瞬間、ギッと睨みつけられた。視線で人を殺せるなら、僕死んでるかもしれない。けど、僕も負けず劣らずシダを睨み返した。もうこれ以上こいつにリュカを好きにさせたくない。その一心だった。
「てめえ、余計な口挟むんじゃねえ」
「リュカが迷惑がってるの、わからないんですか?」
「んだと……!」
一歩で間合いを詰められたと思った瞬間、振りかぶった腕が見えた。殴られる、そう思って顔を背けて目を閉じた。
パシッ!
弾ける音がしたけど、衝撃はやってこない。薄目を開けると、リュカの肩が目の前にあった。ハッとして頭を上げると、シダの大きな拳をリュカが掌で受けていた。
「なんだリュカ。この落とし前はてめえがつけんのか?」
「殴りたきゃ俺を殴ればいい」
「リュカ。俺がお前を殴るわけねえだろ。お前にはもっといい事してやるよ」
わざとらしい猫撫で声とリュカの肩を撫でるいやらしい手つきに寒気がした。リュカだって同じ気持ちの筈だ。
「リュカに手を出すなこのヘンタイ野郎!」
パシっとシダの手を払いのけた。生まれて初めてだった。こんな大声を出すのも、人を貶す言葉を使うのも。
「ルーシュ!黙ってろ」
「おいおいリュカ。こいつはどういう事だ?」
「悪かった」
「一丁前にリュカのナイト気取ってやがるぜ、あ?おいてめえ、リュカとふしだらな事はしてねえんじゃなかったのか?返答次第じゃ命はねえぞ」
「うるさい!お前なんかにリュカを渡すもんか!」
殺すぞって脅されたって、リュカをやすやすこんな奴に引き渡すつもりはない。叫んだのと同時に、僕はすぐ目の前のシダに薪の束を二つとも投げつけた。重い薪束がお腹にクリーンヒットして、シダは蹲った。
予想だにしない展開だったのだろう。事態の把握にワンテンポ要した取り巻き連中が色めきだったのは、身軽になった僕がリュカの手を引いて喧騒を飛び出した後だった。僕もリュカも薪は全部手放してしまったから、今日一日働いた対価は全部パーだ。けど後悔はしていない。シダには、辛うじてまだ手にしているこの斧を投げつけなかっただけありがたいと思って欲しい。
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