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ふしだらな関係 1

 それから僕とリュカは、簡単に身体を重ねる様になってしまった。初めの頃は、誘ってくるのはいつもリュカの方だった。僕は一応形だけの抵抗を示してはいたけれど、結局リュカの誘惑を前にしては僕の理性なんて薄紙よりもペラペラだった。このままじゃだめだと思う一方で、リュカの身体だけでも自分のものにしたいという独占欲がいつしか働くようになって、最近では僕の方からリュカに手を出すことの方が多い。  何をおいても必ず欲しくなるのはリュカが夜外出する日で、僕は寝ずにリュカの帰りを待っては、夜中や朝方に帰宅するリュカを抱いた。リュカから男の───シダの臭いを感じる日は特に酷い。「もう勘弁しろ」と言われても尚執拗にリュカを犯した。リュカが自分以外と身体を合わせている事実を受け止めたくなくて、リュカは僕のものだって叫びたくて、他にどうすればいいのか分からなかったのだ。  僕とリュカは正真正銘ふしだらな関係になった。  僕は物語が書けなくなってしまって、代わりにアンリは自分で日記をつけるようになった。もう僕の添削なんてほとんど要らないくらい、アンリの読み書きは巧みになった。  リュカは変わらずアンリの書いた文字をなぞっていたけど、どのくらい習熟しているのかは不明だ。リュカに教えてあげようと近づくと、僕たちの間にはおかしな空気が流れだす。そうして、いくらも勉強しないうちに僕たちは身体を合わせてしまう。  僕はリュカを前にすると無限に性欲が生まれたし、リュカもきっとそうなんだと思う。僕たちはお互いの気持ちいいところを余す所なく全部知らなきゃ気が済まないみたいに、一日と置かずに抱き合った。二人きりであれば時間も場所もお構いなしだ。ベッドはもちろん、キッチンでも、テーブルの上でも、時には床の上でだってすることがあった。毎日抱き合っても飽きるなんて事は全くない。最初から相性の良かった身体は、繋がる度毎に更に良くなるからだ。  時々、テーブルで向かい合ってただ勉強をして過ごすだけで満たされていた夜が懐かしくなる事がある。けど、今更リュカの身体を知らなかった昔の自分に戻ることはできないし、知ってしまった今、リュカと抱き合うことをやめるなんて、どれだけ冷静になって理性を総動員させたって無理な話だ。  毎日リュカとセックスすることが、今の僕にとっては一番重要なことだった。城を出て僕の知らない世界を知ろうと思ったことも、ここスラムで見識を広げたいと思ったことも、スラムの現状を知ってこの国のあり方を変えなければと使命感に燃えたことも、遠い過去の思い出みたいに感じる。  頭の片隅に、胸の端っこに、本当にこのままでいいのかと問いかける僕がいる。けど、そんな憂鬱の種を正面から受け止めるのはしんどかった。だって本当は、分かっているから。僕の生まれ持った立場と責任を放棄するのは良くないことだって。それに、リュカとの関係だって───。  このままじゃ堕ちていく一方だ。分かっている。何もしなければ転がり堕ちていく一方だって。

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