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秘密 2
「リュカ、大丈夫……?」
女性が去った後も、リュカは何か考え事をしているのか難しい顔して床の一点を見つめていた。心配になって控えめに声をかけてみると、リュカははっとなって顔を上げた。
「あ……あぁ、悪かったな、変な話に巻き込んじまって。座ろうぜ」
リュカが、近くの空いているテーブルを顎でしゃくって指した。平然を装おうとしているのは、僕の目から見ても明らかだった。女性の前では毅然と振る舞っていたけど、今リュカは明らかに動揺している。
テーブルに掛けると、すぐにウェイターが寄ってきた。リュカが慣れた様子で料理を二人分注文してくれる。この時にはもう既にリュカは気を取り直していて、どこをどう見てもいつも通りのリュカだ。さっきのリュカらしからぬ動揺からの切り替えの早さに違和感を覚えるほどに。だから、どうしても気になった。
「ねえリュカ、さっきの話はどういう、」
「あー、その話はパス」
軽い調子で、けど有無を言わさず拒絶されてしまった。想定はしていたけど…………。
あの女の人はきっとリュカの夜の商売相手だろう。リュカは僕に「夜の商売」の話をしたがらない。僕だってそんな話は聞きたくなかったから、これまでは臭いものに蓋をしてるその状態は持ちつ持たれつと言えなくもなかった。けど、何だか意味深な話を聞かされて、リュカのあんなに動揺する姿を見た後はとてもそんな事言っていられない。だって何かあるんだ。あの女の人とリュカの間には、お金のやり取り以外の何かが…………。
僕だって人の事は言えないけど、リュカは何か大きな秘密を抱えている様な気がしてならない。自分の事をあまり語ろうとしないリュカだけど、それでもこれまでの会話の中で引っ掛かっている事柄はいくつかある。けど、気になって深く探ろうとすると、リュカは決まって口を閉ざしてしまう。それは、何か僕に秘密にしておきたい事があるからなのではないだろうか。
リュカが欲しがってる情報って、一体何の事だろう……。何となくだけど、リュカの秘密の核心を突くものである気がしてならない。
リュカ、明日あの女の人と会うのかな……。しかもあの人の夫も交えてって事は……リュカが抱かれる側に回る事もあるのだろうか………。僕だけの、リュカなのに───。
悔しくて腹が立って無意識に噛み締めていた歯がギリッと音を立てたから、慌てて向かい側に目を遣った。頬杖をついて気だるそうにビールを飲んでいるリュカが、僕の歯ぎしりに気付いた様子はない。リュカも僕と同じくらい、物思いに耽っているらしい。
せっかくデートのつもりだったのに、二人揃って心ここに在らずなんて、勿体ないにも程がある。
リュカは一体何を考えているのかな……。想像もつかないけど、幸せでポジティブな考え事じゃないってことだけは分かる。
リュカの秘密。悩み事。お金。シダとの事。その他諸々全部。リュカを縛るすべてのものを断ち切る力が、今の僕にもあればいいのに。
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