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花冠 1

 ノックされて扉を開けると、眼前に緑色の輪っかが突き出された。真新しい草の匂いが鼻に届く。 「おはようアンリ。これ、作ったの?」 「ルーシュにやる」 「えっくれるの?」  壊さない様にそっと両手で受け取ると、アンリは少し恥ずかしそうに鼻の下を擦った。 「お前今日、誕生日だろ」  以前、アンリとハンナとで遊んでいる時に何かの話の流れで誕生日を教えた事がある。けど、それは結構前の事だったし、アンリも特段いつもと違うリアクションもしなかったから、まさかこんな風に覚えていてくれるなんて思いもよらなかった。 「んな驚くなよ。オレだって数字くらい読めるんだぞ」  アンリはもう暦の数字どころか文章だってかなり読めるし、書ける。それは僕が一番知っている。 「そうじゃなくてね、覚えてくれてるって、思わなかったから。ありがとうアンリ。凄く嬉しいよ」 「お前は大事なトモダチ、だからな」  ちょっとモジモジして地面を見ながらそう言うアンリを、僕は抱き締めた。ありがとうアンリ、大好きだよって。アンリが照れて「離せ」って暴れるものだから、わざと離さないでじゃれあって、二人で大笑いした。そうして思った。最近はリュカとこんな風に純粋に触れ合ってないなって。リュカに触れるともっと深い繋がりを持ちたくなってしまうせいだ。その先を「知って」しまったせいだ。  最近僕には心配事がある。リュカがたまに心ここに在らずと言うのか、何か難しい考え事をしている様に見えるからだ。僕への応対は何も変わらないし、相変わらず毎晩の様に抱き合っているけれど、ふとした瞬間に表情が翳る。気になって「どうかした?」って聞いても「何が?」ってはぐらかされるだけだから、僕はあまり深く考えないようにしてたけど…………もしかしたら僕があんまりがっつき過ぎているせいかもしれない。  リュカは優しいからどんなプレイでも結局は受け入れてくれるけど、本当はそんな状況に疲れているのかもしれない。だってリュカは、家の事をする以外はアンリ達と遊んで過ごしてるだけの僕とは違うのだ。たまには、文字通り抱き合って眠るだけの日を作ってもいいのかもしれない。僕の下半身が大人しくしててくれるかが少し不安だけれど。 「僕にも教えて欲しいな」  リュカの家の前の草むらに座り込んでハンナが熱心に編んでいるのは、僕がさっきアンリからプレゼントして貰ったのと同じ、シロツメクサの花冠だ。その作り方を丁寧に教えていたのはもちろんアンリで、ハンナがようやく一人で編み始めたのを見て僕もアンリにお願いしてみた。 「じゃあ花、摘んで来いよ。なるべく茎が細いのな」  アンリに言われた通り茎が細いのを選んで束にして持っていくと、アンリが僕にも丁寧に指導してくれた。 「ここを、こんな風にくるんってして……そうそう、それをまた続けて……」  アンリの指導の賜物か、想像していたよりも簡単に花冠は完成した。茎ばっかり見て選んでしまったけど、花の大きさを統一させればよかったな、と出来上がったものを見て思った。ところどころ大きすぎる花や小さすぎる花が混じってはいるけれど、不器用な僕にしては上出来だ。

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