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丘の上の墓地 1
どうしよう。リュカに嫌われてしまったかもしれない……。きっとニナの事はリュカにとって地雷だったのだ。僕が軽率にニナの真似事の様なことをしてしまったから、それがリュカの逆鱗に触れたんだ……。どうしよう。嫌だよ。リュカ。僕を嫌わないで。もうあんな事しないから。怒らないで。嫌わないで。お願い。僕、リュカに嫌われたくない。他の誰に嫌われても、恨まれても、リュカにだけは……。
目の奥が熱くなって、鼻の奥がツンと痛い。ぽた、ぽた、と涙が顎から落ちて、上衣に染みが広がっていく。悲しくて辛くて、その内足元から崩れ落ちた。玄関の前で蹲ってわんわん泣いた。足元に落ちている花冠が恨めしくて仕方なかった。こんなの、作るんじゃなかった。
「……シュ、おいルーシュ。こんなとこで寝るなよ、風邪引くぞ」
微睡の中で聞こえてきたのはいつもの優しいリュカの声だった。
「ん……リュカ……?」
薄く目を開く。眩しい。目の前のリュカの顔は、全然怒ってないみたいに見える。「しょうがねえな」って僕に呟く時の顔をして、屈んで僕を見下ろしている。
「ゆめ……?」
きっとそうだろうと思った。こんな都合のいいことがあるもんか。
僕はずっと、泣きながら予防線を張るみたいに最悪の事態ばかりを想像していた。お前なんかもう嫌いだって言われる事、出ていけって言われる事。けど、そんな風に思いながらも、リュカならあっけらかんと許してくれるんじゃないかって期待を心のどこかで抱いていたのも事実だ。
僕はどこまでも自分に甘い甘ちゃんだ。そんな都合のいい話があるわけないじゃないか。だから、これは夢だ。僕の願望が具現化しただけだ。そう思っていないと、本当に夢だった時に立ち直れない。
「なに寝ぼけた事言ってんだ。まだ眠いんならちゃんとベッドで寝ろよ」
リュカの顔が離れていく。曲げていた膝を伸ばして立ち上がってしまった。かつかつかつ。足音が離れていって、コップか何か、陶器がテーブルの上に置かれた音がする。続けて、手桶で水を灌ぐ音。夢にしては、あまりにリアルな生活音だ。リュカの姿を夢に見るのは分かるけど、こんなリアル必要……?
薄目だった目をちゃんと開いた。朝だ。窓から朝日が射している。夢じゃない、のかもしれない。頬をつねる。痛い。
頭を上げて姿を探すと、リュカは僕のベッドから毛布を持ち上げる所だった。
「起きたのか?」
上体を起こした僕と視線が合うと、リュカはベッドに毛布を戻した。もしかして、それを僕の身体にかけてくれようとしていたのだろうか。
「リュカ、もう怒ってないの……?」
恐る恐る聞いてみた。さっきから見せるリュカの行動は、怒ってる人がとる行動じゃない。けど、ちゃんと聞くまでは安心できない。
「……昨日は悪かった。全部俺が悪い。ごめん。許してくれるか?」
リュカがしおらしくそう言って、不安そうに首を傾げた。これがもし夢オチだったら、僕本当に立ち直れないからね。
「当たり前だよ!僕はリュカの事何ひとつ怒ってないし!ごめんね、リュカ。僕、無神経なことしちゃって……」
「謝るな。お前は悪くねえよ。俺が勝手にお前に当たっちまっただけだ」
「ううん、謝らせて。リュカと仲直りしたいから」
「あのさ……」
リュカが言葉を詰まらせ俯いた。僕の方からリュカはちょうど逆光で、俯くと影が濃くなってその表情が読み取れない。何を考えているのか不安で、リュカが再び口を開くまでの時間が物凄く長く感じられた。
「……ちょっと付き合えよ」
何度も顔を上げては俯き、を繰り返したリュカがようやく発した言葉がそれだった。僕は二つ返事で頷いた。当然だ。リュカの頼みならどこへだってお供するよ。
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