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丘の上の墓地 3

 聞いちゃいけないことだったんだろうか……。気になるけど昨日の今日でニナの話題をしつこく掘り下げる気にはなれなくて、リュカが手際よく文字を彫り進めるのを黙って眺めていた。二つめの「l」を掘り終えたリュカが、ふう、と息をついて、膝についた砂を叩き落としながら立ち上がる。そして、ぽつりと溢したのだ。 「昨日は俺の誕生日だったんだ」 「え……」  ついさっきまで頭の中を占めていた疑問が見事に全部締め出される。 「そうだったの!?それを知ってたら僕もっと……」  何かしてあげたかったって言おうとして、今の僕にできることなんて何もなかったんだったって思い直した。お金は持っていないし、未だにキャベツのスープしか作れないし……。って、そうじゃなくて、昨日リュカがあんなに怒ったのは───。 「ごめんリュカ。僕、ニナに成り代わろうなんてこと考えてた訳じゃなくて、ただリュカに喜んで貰えたらって思って……」 「謝るなって。お前の気持ちは嬉しかった。誕生日にプレゼント貰うのなんか何年ぶりだろうな」  からりと笑って空を仰ぎ見るリュカに、これ以上しつこく謝るのは無粋だ。だから、謝る代わりに話の種を蒔こうと思った。 「それじゃあ昨日は、この世で一番おめでたい日だったんだね」 「なんで?」  なんで?って事ないのに。リュカの誕生日ってだけでこれ以上ないってくらいおめでたいのに。けど、そんなこと露程も思ってなさそうなリュカは僕を見て首を傾げている。 「僕も、昨日が誕生日だったんだよ」  少しだけ勿体ぶって言うと、リュカは目を丸くした。 「同じ……ってことか?」 「そういうこと」 「まじか」 「ふふ、僕も驚いた」 「そんな日に、その……悪かった」 「それを言うなら僕の方こそ」 「お前はプレゼントくれただろ」 「そのつもりじゃなかったけどね」  知ってたら、プレゼントには僕の宝物のこのペンダントを渡したかったな。……そうだ、僕にはこれがあった。この間断られたばっかりだけど、やっぱり僕はリュカにこれを貰って欲しい。誕生日プレゼントって名目があればリュカも受け取ってくれるかもしれないし。  今日でも遅くないだろうか……。だとしたらどこでどのタイミングで渡そう。今度こそ、成り行きなんかじゃなく、ロマンチックなシチュエーションで……。  考えていたら、ぷっ、とリュカが吹き出すのが聞こえた。 「この世で一番おめでたい、って。お前、時々すげえ自惚れ屋になるよな」  どうやら、さっき僕の言った事で思い出し笑いをした様だ。僕、そんなにおかしな事言ったかな。 「そう……?」 「ああ。純粋で素直で真っ直ぐで羨ましいぜ」 「それって皮肉でしょ?」 「まさか。お前のそういうところ、嫌いじゃない」 「き……」  完全に油断してた。リュカはこんな風にさらっと、いきなり、人をタラす事を言ってくる。全く身構えてなかったせいで、取り繕うこともできずに一瞬で頬がぼっと燃え上がった。  リュカはいつも涼しい顔をしてるから、こういうの、僕だけ子供みたいで恥ずかしいんだよね。昨日成人したっていうのにさ。 「ね、ねえリュカ。嫌いじゃないって事は、す、」 「そこまでは言ってねえ」  いつかと同じようなやり取り。けど、いつかよりもいい返事を貰えるんじゃないかって期待してたから、あの時よりも落ち込んだ。  リュカはどうして、僕に好きと言ってくれないんだろう。抱き合っている時の言葉以外の態度は、僕を好きって言ってると思うんだけどなぁ……。

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