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終わりの夜 2

 今日は後ろで一括りにしていたけれど、抱き合っている内にほつれて落ちてきた髪をリュカが掴んで持ち上げた。 「ごめん。髪、邪魔だよね」 「……かお、が、見たい」  ぼうっと虚ろな瞳をしたリュカが、僕の目をぼんやりと見て言う。 「僕の、顔?」 「ん……」 「嬉しいけど、恥ずかしいな……。リュカとしてる時の僕、間抜けな顔してると思うから……」  ふっと頬を緩めたリュカがゆるゆると首を振った。 「きれい、だ……」  リュカの手が僕の頬に伸びてきた。愛おしむ様な手つきで頬を撫でられる。気持ちがよくて、僕は目を閉じてリュカの手に頬を擦り付けた。 「リュカだって、すごくすごく、誰よりも、何よりも綺麗だよ」  どんな言葉を尽くしても表せないくらい、リュカはこの世のどんなものより綺麗だ。見た目も、中身も、爪の先から髪の毛の一本まで、リュカのすべてが僕は愛おしい…………。 *  いつもならもう既にリュカの体力は尽きている頃だ。けど、今日は違った。 「もう一回、してくれよ」  これまでも何度となく身体を重ねてきたけれど、リュカの方からこんな風に請われるのは初めてだった。湧き上がる情欲とともに、僕は一抹の不安を覚える。  けど、リュカに抱き寄せられ、キスをされたらそんな不安も忘れてしまった。もう勃たないと思っていた性器も勃ち上がり、リュカを求めて勝手に腰が動く。下腿に擦り付けられるそれを見て、リュカがふ、と笑った。あ、今「可愛い」って顔した。違うよ。僕の方がリュカを可愛がるんだから。覚悟してよ。ねえリュカ───。  無限の性欲を持て余した僕たちは、日が陰るまで抱き合って、夕飯を軽く食べて、また夜になったら抱き合った。今日に限ってリュカは気を失う事はなく、代わりに僕の方が先に意識を保つのが難しくなってきて…………。 「ルーシュ……」  遠いまどろみの向こうからリュカの声がする。 「リュカ……リュカ、すき……」 「ルーシュ……」 「すき」  僕の髪を梳きながら、リュカがたくさん僕の名前を呼んでくれた。僕はその度にリュカに好きだと言って、リュカは身体を屈めて僕の頬に頬ずりをくれた。  あ……。これ、いつかみた夢───。あの夢が、現実になった。僕とリュカは心が通い合ったんだ───。 「ルーシュ……叶えろよ、お前のレーヴノーブル」  レーヴノーブル。崇高な夢。それは、僕がアンリの為に書いた物語のタイトルだ。あんなの、所詮夢物語だ。もういいんだ。僕はここで、リュカと幸せに暮らしていくって決めた。だから───。

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