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裁きの時
王の許可を得てすぐに兵を挙げて組織の拠点を押さえ、人拐いを派遣している町の情報を得た。それから毎日、リストにあったスラムの街を上から順に巡り、朝から晩まで歩き回って七日目の夜。ようやく僕はリュカを見つけた。
僕にはリュカを見つけるセンサーがついているのかもしれない。フードを目深にかぶったリュカの外套はあの頃と違うものだったけど、僕には遠くからでも、人ごみの中でもそれがリュカだってすぐに分かった。リュカも、多分僕とほぼ同じタイミングでこちらに気づいた。そして、極めて自然な動作で進行方向を変えた。
「あの緑色のコートの彼を追って!」
僕は、僕同様、街に紛れるよう庶民風の服を着た兵士たちに告げると、彼らと共に駆け出した。
リュカは走って逃げ出すこともなく、意外なほどあっさりと捕まった。これだけの数の精鋭兵からは流石に逃れられないと踏んだのか、それとも───。
「これはこれは王子様。このような所で何をされておられるのですか」
捜して捜して、ようやくこうして会えたっていうのに、感動の欠片もないリュカの他人行儀な声と態度が心に突き刺さる。けれど、同じ轍は二度と踏まない。どんなに酷い事を言われたって、もう僕は絶対にリュカを何処へも行かせない。それだけは心に決めている。
「リュカを、さがしてたんだよ……」
「へえ。それは一体どういった理由で?」
こてんと首を傾げたリュカの仕草はあの頃のままなのに、その瞳は夜の闇を煮詰めたみたいに暗かった。
目を凝らせば分かる程度の赤黒い飛沫をリュカの頬に見つけた瞬間、僕は自分の不甲斐なさに慟哭しそうになった。手遅れだった……。気付いた時にはもう遅かったのは知っていたけれど、それでももう少し早くリュカを見つけられていたら、少なくとも今日は、リュカの手を汚さずに済んだかもしれないのに……。
「ごめん……僕、リュカの苦しみに、ひとつも気づいてあげられなかった……」
リュカをここまで駆り立ててしまった深い憎しみに。復讐心に。そしてリュカの重く暗い目的に。リュカはずっとそんな闇を抱えて生きていたというのに、僕は能天気に夢物語を描いて、能天気にリュカと普通の恋愛がしたいと嘆いていた。僕は何も……何一つ気づいてあげられなかった。気づいたとして、当時の僕に何ができたかは分からない。けれど、あの頃の僕にだって、その闇に寄り添うことぐらいはできた筈だし、リュカが願うのなら、自らの足で即王都へ戻って、僕の手であいつら全員を処刑したってよかったのに……。
「触るな!」
伸ばした手が頬に触れる寸前、リュカによってそれは叩き落とされた。せめて、頬の汚れを拭ってあげたかったのだ。
明確な拒絶がショックで、そのままの体勢で茫然としてしまった僕を見て、リュカがはっとなった。僕はそんなリュカを見てほっと胸を撫で下ろす。
「汚れるだろ、お前が……」
視線を逸らして口をもごもごさせながら言うリュカは、相変わらず可愛くて格好良くて優しい。ああ変わってない。リュカはリュカだ……。
「あの組織は僕が壊滅させた。だから、もういいんだよ、リュカ。もう、終わりにしよう」
さっき叩き落とされたばかりだけれど、めげずにリュカに手を差し伸べる。リュカは静かに顔を上げて、未だ暗い瞳で僕を真っ直ぐに捉えた。
「まさかお前に捕らえられることになるとは思わなかったぜ」
僕の手を取ることなく、縄を欲するみたいに両手を合わせて付き出しながらそう言ったリュカの表情は、その場にそぐわないほど晴れやかに見えた。
───もしかしたらリュカはこの時を待っていたのかもしれない。自分が、捕らえられ、裁かれる時を───。
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