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アップルティー 4

「今度、一緒にニナの眠る場所に行こう」  お墓もないなんて酷いから、まずは墓石を立てなくちゃ。そこに眠る、ニナ以外の人たちの為にも。 「そうだな」  リュカは、カップの中の紅茶の波紋を眺めながら静かに返事をした。 「ニナは、辛い目に遭う前に天国に行った。それが分かっただけでも救いだよな。聞き出してくれて、ありがとな」  確かに、ニナは純潔を散らす前に死んだ。けど、それが唯一の救いなんて、ニナをわが子の様に愛し、慈しみ、大切にしていたリュカにとってはあまりに残酷な事だ。  僕は腕を伸ばし、テーブルの上でリュカの手を握った。リュカはまた、柄になくピクっと小さく震えた。 「もう、泣いていいんだよ、リュカ」  リュカの泣き顔を、僕は見たことがない。きっと、リュカはどんなに辛くても、苦しくても、自分のために泣いてる暇なんてなかったのだろう。母を亡くした時は、ニナのために。ニナを失った時は、ニナの仇を討つために。そうやってリュカはずっと、自分じゃない誰かのために生きてきた。 「泣くかよ。お前じゃあるまいし」  泣くどころか鼻で笑ってそう答えるリュカは、本当に強い人だ。けど、強いだけだと、いつかぽっきり折れてしまいそうで怖い。だから───。 「リュカが泣けないなら、僕が代わりに泣いてあげる」  「は?」まさにそんな顔してリュカは呆気に取られている。  リュカが自分のために泣けないなら、僕がリュカのために泣けばいいって思った。弱くて情けなくて泣き虫な僕を見て、リュカも少しずつ自分の弱さを晒け出してくれたら、嬉しい。  涙は、人を弱くもするけど、強くもする。僕はリュカを探してる間だけでも何度も膝から崩れ落ちる様な絶望を味わい、涙した。けど、その度毎に迷いを振り払い、僕は立ち上がってきた。絶対に諦めないんだって、強く心に誓って。 「リュカに辛いこと、悲しいことが起きたら、僕が代わりに泣くよ。だから、これからもずっとリュカの傍にいさせて」  握った手に力を込める。リュカは僕から視線を逸らした。どうして迷うんだろう。まだ、僕の気持ちを信じきれないのだろうか。 「リュカ、すきだよ。リュカの生まれとか、身分とか、そんなのひとつも関係ない。性別だってね。リュカを絶対に幸せにするって誓うよ。この国の誰にも、文句は言わせない」  指を一本一本絡める様に、握った手を繋ぎ直していたら、するんとリュカが手を引いた。僕の手は空を掴む。───ショックだった。あからさまに逃げられたから。  リュカは一瞬だけ僕を見て、けどすぐにまた目を逸らした。僕の目には、その顔は気まずそうに見えた。 「……悪いけど、お前の気持ちには応えられない」 「どうして……?」 「俺は…………幸せになっていい人間じゃない」  どうして……。幸せになるのに資格なんていらないよ。もしも犯した罪を償いたいのなら、僕も同じ罪を背負っている。一緒に償っていこうよ。  どんな言葉を尽くしても、リュカは首を横に振るばかり。 「どうしてなの?僕の事嫌いじゃないなら、一緒に生きてよ……」  最後の方、僕は泣きべそをかきかけていた。リュカは、そんな僕に「ごめん」って言ってはくれても、決して頷いてはくれなかった。  リュカが何を考えているのか分からない。僕と同じ気持ちなんじゃないの……?けど、だったら断る理由なんてない筈なのに……。  自分で言うのもなんだけど、僕に見初められ、僕に寵愛されるのは、それ以上の栄誉はないってぐらい誰もが羨む立場だと思うのだ。何せ僕はこの大国デルフィアの次期王なのだから。身分や性別による気後れが多少なりともあったとしても、これだけ大きな玉の輿を、普通みすみす逃すものだろうか。それがリュカなのだと言ってしまえば、それまでだけど……。  悲嘆に暮れながらも強かな僕は、リュカの部屋を出た後相変わらずドアの両側に立っている二人の近衛兵に「厳重警備」を命じた。つまり、リュカをこの部屋から一歩も外へ出すな、と。

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