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アールグレイ 2
「それにしても、ミシェル、本当にリュカの前では色々喋るんだね。僕の前では全然だよ。やっぱり僕が王子だからかな。威厳とか威圧感とか、あんまりないと思うんだけどな……」
うーん、と思い悩んでいたら、リュカがぷっと吹き出した。
「お前、まだ分かんねえの。ミシェルはお前が好きなんだよ。だから、お前の前では緊張するんだろ」
「え……僕……?」
ぽっと頬が熱くなった。ミシェルの事を意識したことはなかったし、今でも意識してるわけではないけれど、初めて女の人にそういう好意を向けられたから……。
「なんだ、まんざらでもねえのか」
「ち、違うよ!ただ、僕はそういうの初めてで、信じられないって言うか……」
「相変わらず初な坊ちゃんで」
「か、からかわないでよ!」
「お前さ、まだ女抱いたことねえんだろ」
僕は口を閉ざした。リュカとそういう話をしたくなくて。
「せっかくなんだ、ミシェルを抱いてみたらどうだ?娶れとまでは言わねえよ。あの子だって、自分の身の程は弁えてるだろうし。たとえ一晩だとしても、ミシェルにとってはいい思い出になると思うぜ。王子様に抱かれて喜ばない女なんかいねえんだからさ、」
「やめてよ!僕は気のない相手とそういう事するつもりはないから!」
僕が大声を出したせいでリュカが弾かれたようにびくっとなった。
「ごめん。そんなに怒るなよ」
リュカの眉がハの字になっている。悪気はなかったのだろう。けど、リュカにそんな事を言われる僕の身にもなって欲しい。これ以上残酷な事って、そうないんじゃないかな。
「僕はリュカ以外誰も、抱きたくなんかないのに……」
思わず恨み言を言ってしまう。リュカの分からず屋。頑固者。そう叫び出したいくらいだ。
「けどさ、お前、王子だろ」
「うん。だから何?」
「女抱かなきゃ、子供が作れねえぞ」
「そんな心配、リュカにして貰わなくていい」
「けど、」
「いいんだってば!」
将来の事は僕なりにちゃんと考えてる。その上で僕はリュカだけを生涯愛すると決めたんだから。
「俺はただ……お前には幸せになってもらいたくて……」
しょんぼりと俯いたリュカがポツリと言った。
「僕だってそうだよ。リュカに幸せになって貰いたい。……ううん、違った。僕が幸せにしたい。僕以外の誰かと幸せになるところは、見たくないな」
僕はリュカみたく心が広くないから。リュカの幸せだけを願うことなんてできない。大好きなリュカを誰かにあげるなんて、考えるだけでどうにかなりそう。リュカを僕のものにしたい。リュカには僕だけを見ていて欲しい。僕と、幸せになって欲しい。
「安心しろよ。俺は誰とも幸せになったりしない」
「僕とは?」
「…………」
また黙りだ。どうしてリュカは自分の幸せを願えないの?その手を血で染めたから?けど、その前から、あのスラムで一緒に暮らしてた頃から、リュカはそうだった様な気がする。一体どうして……。
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