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マロウブルー 1
昼下がり。いつもの様にリュカの部屋をノックした。いつもはすぐに応答があるのに、少し待ってみても全くドアが開く様子がない。僕は相変わらず直立不動で部屋の前に立っている近衛兵と目を見合わせた。
「そ、外へは出ておりません!」
近衛兵が慌てて僕に言う。僕は直ぐ様ドアを開けた。部屋に入ると、白いレースのカーテンが大きくはためいていた。リュカの姿は見えない───。
「リュカ!!!!」
「なんだよ、でかい声出して」
これ以上にないくらい慌てる僕を他所に、能天気なリュカの声が聞こえた。けれど、姿はまだ見えない。
「リュカ!どこにいるの!?」
「ここ」
はためくカーテンの隙間からリュカがひょいと顔を出した。そんな所に……。
「リュカ……よかった……。びっくりしたよ……」
リュカはカーテンの向こう側。全開にした窓の前に立っている。僕は存在を確かめるように、背後から愛しい身体を抱き締めた。
「何してるの、そんな所で。危ないよ」
「俺が身を投げるとでも?」
「そ……んなこと、思ってないけど……」
本当は、脳裏を過った。自殺を恐れたというより、窓から逃げ出したんじゃないか、って。
リュカの頭越しに窓の外を見下ろしてみる。ここはお城の五階。流石のリュカだって、ここから落ちたらただの怪我じゃ済まない。バルコニーもなければ、足を掛ける所さえない。窓からの脱出は不可能だ。少なくとも僕にはそうとしか思えなかった。
「外の空気を吸ってただけだ。誰かさんに閉じ込められてるせいで、息苦しいんでね」
「リュカが僕の気持ちに応えてくれればいいだけだよ。そうすれば君はすぐにも自由の身だ」
「……お前って王族らしくねえなって思ってたけど、間違いだった」
「それって褒めてくれてるんだよね?」
「いいや。横暴だって言ってんだ」
今日もリュカの胸元はゆるゆるだ。僕は晒されてるリュカの首に顔を埋めて、リュカの体温とリュカの匂いを思いっきり吸い込んだ。初めは、憎まれ口を聞かれた意趣返しのつもりだった。けど、水のように無味無臭なリュカの匂いと艶かしい温度を直に感じて、僕の身体は一気に熱くなった。ただ息を吸い込んでいるだけでは我慢できなくなった。
「おい……」
リュカが抗議の声を上げる。けど、首筋にちゅ、ちゅ、とキスを始めた僕の唇は止まらない。それどころか、無意識に腰まで揺らしてしまう。固くなった性器を、リュカの腰に擦り付けて。
「お前、こういうことしないって言わなかったか?」
「そのつもりだったよ……」
「じゃあなんだよ、これ」
これまで何食わぬ顔でお茶してきたけど、リュカの素肌を意識し始めてからずっとずっと、リュカを抱きたくて堪らなかった。部屋に帰った後は、決まってリュカを想って自分を慰めた。そんな僕がリュカにこんな風に触れて、平気でいられる筈はなかったんだ。
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