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マロウブルー 2

 腰を振るのがやめられない。それどころか、腰を少し屈めて、わざとリュカのお尻の割れ目に添うように擦り付けた。立ったまま挿入するときみたいに。実際に挿入している訳じゃないけれど、まるでそうしているみたいに興奮して、リュカの首筋にちうっと強く吸いついたら、リュカがう、と声を上げた。 「なあ、やめろ、よ」 「いや?リュカは僕としたくない?」  自分の呼吸が荒すぎて、まるで獣みたいだ。したくて堪らない。僕がこんなになっているんだから、リュカだってムラムラしている筈だ。だってあの頃僕たちは毎日抱き合っても尚足りないってくらいの性欲を持て余していた。僕の独り善がりじゃなくて、リュカだって確かに僕を求めてくれていた。 「ねえ、リュカは牢屋から僕の部屋に通ってくれるんじゃなかったの?」  したい。したい。そればかりの僕の頭からは、デリカシーというものは消え失せていた。リュカが前に言ったその言葉は確かに僕を打ちのめした筈だったのに、それを言質にまで使って……。 「気が変わった」  それなのにリュカは平然とそっけなくそう言ってのけた。酷いよ。焦らさないでよ。僕はこんなにもその気になっているというのに。 「リュカ、僕の事は好きじゃなくても、気持ちいい事は、セックスは好きでしょ?」  僕のデリカシーは欠片も残らず消えたらしい。これまで思ってはいても決して言葉にしなかったこれを、こんな風にさらっと言ってしまえるなんて。 「俺が、セックスが好きだって?」  リュカが皮肉めいた口調で言った。怒っているとも、誘うように妖艶に微笑んでいるともとれる声色で、僕は色んな意味でドキドキした。  頑なに前を向いていたリュカが首を回して僕を振り向いた。心臓が止まるかと思った。その目は怒りでもなければ誘惑もしていなかった。ただ、暗い色をしていたから。 「お前に俺はそう見えるのか」  リュカは一瞬見せた暗い瞳を綺麗に隠して自嘲すると、力の抜けた僕の腕の中から抜け出した。そして然り気無く僕から距離を取ると、何事もなかったみたいな顔で言った。 「なあ、いつになったら連れてってくれるんだ?」 「え……」 「ニナが埋められてるところ」 「あ……」 「早く、手を合わせてやりたいんだけど」  連れて行ってあげないと、とはいつも思っていた。けど、今リュカを外に連れ出したら僕の腕の中から逃げ出してしまうんじゃないか。もう少しリュカの心が掴めた後でもいいじゃないか。ついついそう考えてしまってずっと先延ばしにしてしまっていた。 「ぼ、僕の護衛が調整できたら、連れて行こうと思ってるよ」 「ふーん。王子様は出かけるのも一苦労だな」  リュカはいつもよりも行儀悪くどかっと椅子に座った。上げた片足の上に顎を乗せると、のんきに「今日は何飲ましてくれんの」と言っている。わざと粗野な行動を取って色気を覆い隠そうとしているのは明らかだった。もう僕に迫られないために。僕との間に生じた微妙な空気を誤魔化すために。   「ミシェルを、呼んでくるね」 「おー」  どんなにリュカが色っぽさを隠しても、僕にはリュカの仕草が、白い肌が、美しい容姿が、僕を直接責めないその優しさが愛おしくて、欲しくて欲しくて触れたくて堪らなくなる。あんなやり取りの直後だというのに、気を抜いたら手を伸ばしてしまいそうで、僕は一度部屋を出た。そして、兵に言いつければいいものを、わざわざミシェルを探して歩いた。冷静になる必要があった。また、一方的にリュカに手を出してしまわないために。 

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