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ニナの眠る場所 2

 護衛の為付き添ってくれた十以上の兵士とも協力して、穴を埋めてそこに墓を作った。墓石は、用意したものを王都から馬車と荷車でここまで運んできていた。  墓石にはこう刻まれている。『時代を築く者たち、ここに眠る』 「時代を築く者たち……って?」  リュカがそれを読んで僕に訊ねた。貴賓室で過ごす時間の殆どを読書に費やしているらしいリュカは、いつの間にかこんな難しい言い回しも読めるようになっていた。 「上手い文句が思いつかなくてごめんね。ただ、君たちの死は無駄にしない。それだけは彼らに伝えたくて。僕は絶対、奴隷のいない国を作るよ。リュカと、ここに眠る彼らに誓う。支配するものも、されるものもいない世界を、僕は実現させるから」  ちょっと格好つけすぎたかな。ちらりと横目でリュカを見る。リュカは僕と目が合うと、茶化すことなく微笑んで頷いてくれた。 「なあ、ちょっと話してもいいか」 「もちろん」  僕とリュカは少し歩いて、真新しいお墓から一番近い大きな木の根元に並んで腰かけた。その木は僕たちを覆うように枝を伸ばし、葉を広げているけれど、不思議と鬱蒼とした雰囲気はない。寧ろ柔らかな木漏れ日が差していて気持ちがよかった。  兵士たちは僕たちに気を遣ってか、お墓の傍から動かず、少し離れた位置からこちらを見守っている。 「ニナが拐われたのは、俺の十五の誕生日だった」  リュカは前置きもなくそう言った。  誕生日───そうだったんだ……。だからあの時リュカはあんなに───。 「悪かったな。お前がせっかく作ってくれたプレゼント、払いのけたりして」 「いいよそんなの!……僕の方こそ、ごめん。誕生日の花冠は、リュカのトラウマだったんだよね……」  知らなかったとは言え、的確に地雷を踏みぬいたとも言える。そりゃあ、いくらリュカでも取り乱すよ。自分を責める僕に向かって、リュカは静かに首を振った。 「怖かったんだ。お前までいなくなるんじゃないかって」  怖かった、なんて言葉を、こんなシリアスな場面でリュカの口から聞くとは思わなかった。僕は顔には出さず、心の中だけで驚いた。 「お前に依存してる自分に気づいた。いや、前から分かってはいたけど……自分の行動に突き付けられたんだ。だから、お前を元の世界に返すことにした」 「そ……んな。どうして。依存してくれていいよ。僕はリュカなしでは生きられないくらい、リュカに依存してるよ。いいじゃないか。お互いにそうなら、誰も困らないよ」 「俺が困るんだ」 「どうして?」  リュカは目を伏せた。また、そうやって僕の質問をはぐらかそうとする。今日という今日は、そうはさせない。僕はいつになく強気だった。だって、僕がいなくなることを「怖い」なんて言うリュカが、僕の事嫌っているわけないから。寧ろ、やっぱり僕と同じ気持ちなんじゃないかって思うから。本当のリュカの心を知るまで、今日は絶対にあきらめない。 「ねえリュカ。どうして君は僕から離れようとするの?一体君は何を恐れているの?」 「恐れてるわけじゃない。ただ……」  リュカが言葉を探している。僕は黙って、ただリュカが次に口を開くのを待った。 「決めたんだ。俺は、自分の罪を贖うために生きるって」 「罪……?って、奴隷商を殺したこと……?」  リュカが首を振る。そうだろう。だって、スラムで一緒に暮らしていたころ、リュカはその罪を背負っていなかった。じゃあ一体何の事……。 「……ちょっと長くなるぞ」 「聞かせて。僕はリュカの事、知りたいよ」  リュカは小さく頷くと淡々と語り始めた。三年前の、リュカの誕生日に起こった悲劇を。

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