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彼の心 2

「流石にそんなに待てないよ」 「別に俺はお前に待っててくれなんて言っちゃいねえが」 「待つに決まってるじゃないか。僕にはリュカしかいないんだから」 「……なあ、お前まさか、まだ女抱いてねえのか?」 「……悪い?」 「お前なあ……」  リュカが深くため息をついたから、急激に腹が立った。 「僕をこんな風にしたのはリュカじゃないか!リュカのせいなんだよ!リュカの身体を知ったせいで、僕は……!」  カッとなって、完全に言っちゃいけないことを言ってしまった自覚はある。頭に血が昇って、勢いを止める事ができなかったのだ。 「悪かった。そうだよな、俺のせいだ。全部俺が悪い」  リュカは怒るでもなくそう言うと、収まりのつけられない僕の身体をそっと抱き寄せた。そうして、あやす様にとんとん、と背中を優しく叩いてくれる。  一時的な怒りにかまけて暴言を吐いてしまった自分が酷く子供に感じられて居たたまれない。けど、リュカはそんな僕の気持ちすら見越したみたいに、こんな風に僕を抱き締めて、受け入れてるってことを全身で伝えてくれる。  こういう時特に実感する。三歳の年の差は大きいなって。一度くらい僕の方がリュカに包容力を見せつけたいって思ってはいるけれど、リュカと僕の年齢差は永遠に埋まるものじゃない。もしかしたら、僕は幾つになってもリュカにこうして甘やかされ続けるのかもしれない。けどそれって、全然悪くない。寧ろ最高に幸せだ。 「……リュカごめん。嘘だよ。違うよ。リュカのせいなんかじゃない。僕がリュカを、好き過ぎるだけなんだ……」  たくさんポンポンしてもらって、ようやく気持ちが落ち着いて素直に謝る事ができた。リュカは静かに「そうか」って答えて、僕の謝罪すらあっさり受け入れてくれる。  たとえ三年経ったとしても、僕は自分がここまでできた人間になれる気がしないよ……。  リュカの包容力に、もう少し甘えさせて貰っちゃおうかな。  「スケベで腹黒の策略家」な自分が頭をもたげたのを今はっきり自覚した。  ───リュカが僕に甘過ぎるのが悪いんだ。  腹黒の僕は、そんな風に責任すらリュカに擦り付ける始末。  実を言うとこの四年間で、女性を抱こうとしたことはある。リュカの事を片時も忘れたことなんてなかったけど、もう二度と会えないのかもしれないと絶望する夜もあったから。  けど、結局最後まで抱けなかった。女性の身体を見て興奮はした。そしてどうしてもちらつくリュカの幻影を頭から追い払って前戯までは辛うじてできたのに、肝心の挿入となった時、いつも僕の性器は役立たずになった。だから、そういう仕事をしている女性たちの間で、僕は不能の王子と噂されている。 「───立派なものぶら下げてるのに勿体ない、って陰口言われてるの、聞いちゃったんだ。笑っちゃうよね」 「笑えねえよ、ばか」  何かを察したのだろう。リュカが腕を解いて身体を離そうとした。けど、それを許す僕じゃない。今度は僕の方がきつくリュカを抱き寄せた。 「リュカのこと抱きしめてるだけで、こんなになっちゃうのにさ……」  リュカの体温が移った所は全部熱くなって、触れ始めた瞬間から気持ちもあっちの方に傾いていってしまう。  スケベ心を自覚してすぐ、僕の性器は限界まで勃起した。僕を謗った女性がこんな姿を見たら、果たしてなんて言うのだろう。  「リュカは、僕と抱き合って興奮したりしないの?」 「ちょ、やめろよ……」  おねだりするみたいに腰を擦り付けて、自分の硬くなった性器でリュカの股を探った。リュカは腰を引いて逃げようとするけど、逆に僕は腰を突き出してリュカを逃がさない。 「ずっと、四年間もお預けされてたんだ。ねえ、したいよ、リュカ。お願い、僕を開放して……」  甘えた声を出すと、強張っていたリュカの身体からふと力が抜けた。頬に唇を寄せてみる。リュカは視線を斜め下に向けたままじっとしている。頬に手を添えて顔を上げさせると、リュカは戸惑いの色を浮かべて僕を見た。迷っているのなら、嫌じゃないのなら、抱いていいでしょ?  逃げられないよう、頬に手を添えたまま唇にキスをした。リュカは何かと葛藤するみたいに唇を固く閉じている。そんな頑なな唇に辛抱強く触れるだけのキスを繰り返し、上唇と下唇をふやけさせるくらい食んで、ようやくリュカの唇は緩んだ。すかさず舌をねじ込み、キスをしながらベッドに押し倒したら、後はなし崩しだった。四年ぶりだったのに、一瞬であの頃に戻った様な気がした。リュカを毎晩抱いていたあのスラムのベッドに。 「ねえ、僕以外とこういうこと、した?」  僕の股の間で上下する桜色の頭を撫でながら聞いた。僕は誰とも最後までしていないけど、リュカはどうなのだろう。  四年間の空白は恐ろしい。その間にリュカが誰と何をしていたのか、つぶさに知りたい。  「んなわけ、ねえだろ」  リュカは僕の事を上目遣いに睨みつけると、僕のを口に咥えたままそう答えた。本当、だろうか。こんなにもえっちで可愛くて綺麗なリュカが放っておかれるはずないと思うんだけど。 「つまんねえことかんがえてんじゃねえよ」 「う、……っ」  また咥えながら舌っ足らずに喋ったリュカが、僕の弱いところにちうっと吸い付いた。  やったな。僕は、リュカの両脇に手を差し入れてその身体を引き上げると上下を入れ変えた。早くリュカを抱きたかった。リュカとひとつになって、一刻も早くリュカを僕のものにしたかった。

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