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彼の心 3

「会いたかった……」  気を失う寸前まで抱き潰したリュカのどろどろの身体を抱きしめて呟く。リュカはよくそうする様に、ふ、と息を吐いて笑うと、言った。 「そういうのは、もっと違うタイミングで言うべきだろ」  確かにその通りだ。それは会った直後に言うべきで、間違っても今ではない。   「したかったって言ってるみたいに聞こえるかもだけど、違うよ、そうじゃなくて、本当にただ会いたかったんだ。タイミングが悪かったのは認める」 「どうだかな」 「ほんとうだよ」  そりゃあ、セックスだって嫌いじゃない。寧ろリュカとのそれは大好きだ。けど、それだけのためにリュカに会いたかったわけじゃない。 「あのね、リュカ。ごめんね、前に、言ったこと……」 「前……?何のことだ?」 「リュカの事、好きものみたいに言って。あの時の僕は性欲に目が眩んでて……あれは、言っちゃいけないことだったんだ……」  以前口にしてしまった、「僕の事すきじゃなくてもセックスは好きでしょ?」って発言の事だ。あの時の事を、ずっとリュカに謝りたいと思っていた。リュカを酷く傷つけたはずだから。 「別に謝らなくていい。そう思われても仕方ない行動を、俺が取ってたんだから」 「違うよ、リュカのせいじゃない。思っても言っちゃいけない事があるんだ」 「ふ……それはやっぱりそう思ってるってことか」 「あ……」  僕って正真正銘のバカなんじゃないだろうか。またこうして墓穴を掘ってしまう。 「ね、ねえ、リュカは今までどこで何をしてたの?」  これ以上の失態を続けないために僕にできることは、話を逸らすことだけだった。そんな僕の話の逸らし方があまりにわざとらしかったからだろう。リュカはくすくす笑ってから答えた。 「旅をしてた。色んな町を回って日雇いの仕事したり、困ってる人がいたら力になってやったりな。こんな風に自由になれたのは、お前のお陰でもあるんだぜ。お前を保護した謝礼、かなり貰えたから」 「そう、なんだ。お金、まだ残ってるの?」 「流石にもうねえよ。けど、俺一人食っていくのはそう難しいことじゃない。栄えてる町に行けば、その分仕事は豊富にあるしな。そういやお前、手配書はやめろよな。元々ひとつの場所に留まるつもりはなかったからよかったけどさ」  手配書が全く仕事をしなかったのはそういう事か。もう目的を達したリュカは面倒事を避けるために目立つ髪と顔を隠して行動していただろうし、誰かに怪しまれる頃にはもう次の街へと移っていたのだろう。  どうしてこんなにも見つからなかったのかって事も気になってはいたけれど、こうしてリュカと再び出会えた今となって気になるのはもっと別の事で───。

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