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彼の心 4
「仕事……って、どんな……?」
「色々。力仕事もあれば、店番とか犬の散歩とか、びっくりするくらい簡単な仕事もしたな。そうそう、船の仕事をしたこともあるぜ。あれは結構楽しかった。うちのじいさんは漁師だったらしいからな。その血が俺にも流れてるのかもな」
力仕事に店番に犬の散歩に船乗り。本当に、それだけ……?
力仕事の後、屈強な男達に囲まれたりしてない?店番や犬の散歩はただの口実で、そこの女将にベッドに誘われたりしてない?船に乗ってる間、溜まった男たちの処理役とかさせられてない?
「……お前、今変なこと考えてるだろ」
気づくとリュカが目を据わらせて僕をじっと見ていた。僕、そんなおかしな顔をしていたのだろうか……。
「お前もあれか?ピンク髪は色情魔で、性欲が半端なくて、そーいうことしか能がないとでも思ってんのか」
「ご、誤解だよ!そんな事思ってないよ!僕はただ……」
「ただ?」
「ただ、リュカがあんまり魅力的で……僕だけじゃなくて、きっと誰から見てもそうだから、だから、だからリュカのこと心配で……」
「お前はいつから俺を心配できる立場になったんだ」
「え?」
「スラムに放り出されたら、一人で生きていけねえくせに」
「そ、それは、そうだけど……」
「俺は、俺がスラムでやってきた事を恥じちゃいねえよ。すべて、あそこで生きるために必要な事だったって思ってるから。けど、別に好きでやってたわけじゃない。俺はな、好きでもない相手と目的も理由もなく寝るほど物好きじゃねえんだ」
「うん……そうだよね。変な想像してごめんね、リュカ」
そうだった。リュカは僕が心配する必要なんてないぐらい強くて賢くて、自分の身は自分で守れる人だ。そんなリュカが望まない相手から凌辱されるようなヘマを踏む筈はないのだ。シダとの間の事だって、きっと止むに止まれぬ事情があったに違いない。
それに、ちゃんとした仕事があるのにわざわざ身体を売る筈もない。スラムにいた頃のリュカが自ら望んで夜の街に繰り出したことなんてないって知ってたはずなのに、僕はどうしてそんな心配をしてしまったんだろう。
そうだよね、普通、好きでもない相手と抱き合いたいなんて思わないよね。それが例え女の人相手でも。
リュカも、僕と同じなんだ。好きじゃない相手とは、抱き合いたくないんだ。僕と同じだ。僕と……おな、じ……?
「リュ、リュ、リュカ!?それってさ、それってつまり……!」
「何だよいきなりうるせえな。俺はもう寝るぞ。お前のせいで疲れた」
「ま、ままま、待って!寝ないで、リュカ!ねえ、リュカ!!」
「おやすみ」
「リュカ、僕と同じなんでしょ?同じなんだね?僕の事すきだから、僕に抱かれてくれたんだよね?いつから?ねえ、初めて僕と寝た時には、もう僕の事すきだったの?ねえ、リュカ!僕、嬉しいよ。しあわせだよ。リュカ、すきだよ。だいすきだよ。一生、傍にいて。もう僕は、リュカのいない人生なんて、考えられないんだ。ずっと、僕の腕の中にいてよ、リュカ……」
リュカは結局狸寝入りを続けたまま何も言ってくれなかった。けど、疲れたっていうのは本当だったのだろう。いつしか本物の寝息が聞こえだした。
僕がこんなに幸せで満たされて興奮しているというのに、呑気なものだ。
時計の針が12を越して、日付が変わった。僕の誕生日が終わった。リュカの誕生日も。
……しまった。僕、リュカに貰ってばかりで何にもリュカにプレゼントできていなかった。
明日の朝目覚めたらすぐ、ベッドの上で僕の宝物の宝石を渡すんだ。結婚してくださいってプロポーズして、そうしてまたリュカと愛を確かめ合おう。今度こそ、僕の「すき」に応えてくれるかな……。
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