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第5話
ぐちゅぐちゅと鳴る水音が速くなってきた。僕の嬌声も断続的でなくなってきている。ハルが少し乱暴に僕を犯してくるので、僕はハルにしがみつくのに必死だ。
「ぁ……、せんぱ、いっ」
ハルの性急な声に、あ、イくのか、と気付いた。「いいよ」と伝えたいけれど、僕の口からは唾液と、意味をなさない喘ぎ声しか出ない。
ハルが僕の耳元で小さく「せんぱい、せんぱいっ」と繰り返す。僕の中がハルでいっぱいになりそうになる。ぐっとひと際奥まで犯された。
「あっ、ああっ、……っっ」
強い快楽に、僕は思わずハルの背中に爪をたてた。
目を瞑っているのに目の前が真白になり、僕のからだが小さく痙攣する。ハルにぎゅっとしがみつく。僕の後孔もハルをきつく咥えこんだ。そこでハルも一度どくん、と拍動した。
多分薄い膜越しにハルは射精したのだと思う。絶対に越えられない膜が、僕とハルの間にもある気がしている。
そんなことを思っていたら、ぽた、と水が僕の頬に落ちてきた。薄っすらと目を開けると、ハルのなごむによく似た目から涙が落ちていた。
「なんで」
泣いているんだ、ときこうとしたら、ハルの方が先に口を開いた。
「まどか先輩、そういう顔でイくんだ」
さっと羞恥で顔が熱くなる。そういえばハルに腕をとられていたから、顔を隠せなかった。涙と涎でべたべたの顔を見られてしまった。今までこんな汚い顔を見せたくなかったので、ずっと隠していた。
「あ……、」
なんて言い訳したらいいのだろう。僕の頭の中をいろんな言葉が巡っていく。けれどどれも的確な理由にはなりそうにない。
そうしている間にも、ぽた、ぽた、とハルの涙が断続的に落ちてくる。
「ハル」
なんでそんなにハルが泣くのかわからない。どうしていいのかわからなくて、僕はハルの頭を撫でてあげた。そうするとハルが僕に抱きついてきた。
「おれ、まどか先輩のこと、何にも知らない」
ぐぐもった声でハルが言う。そうだろうか。僕は首を傾げてから、そういえば何も教えていなかったな、とも思う。
「イくときの顔もはじめて知った。今日はじめて先輩に背中に爪たてられた。でもキスしない理由も、痕つけない理由も、去年何があったかも、おれは知らない」
はるはなごむを連れて行ってしまうから、だから教えなかった。
なのにイくときの顔は見られてしまうし、イく寸前にはハルでいっぱいになってしまった。ハルの背中に痕もつけてしまった。僕の中で一年前よりもハルの占める割合が増えている。僕の中のなごむはハルに上書きされていく。
「はるなんてきらいだ」
まだ辛うじて明るい窓の外に目を向けると、やっぱり桜の花弁が散っていた。
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