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ピュア・ホワイト・ナイチンゲール⑥

 結局ルースは、カップに残っていたお茶を俺が飲み干すまで、俺をじっと見続けていた。  よくわからない圧を感じつつ飲むお茶は、もはや味すら感じない。しかしどうもルースは、俺がそのお茶を全部飲み切ることにこだわっていたようだ。  なぜ? というのは、もう聞かないでおくことにしよう。  もちろん中身のことも……何を言われるか分かったものではないし、もうあんな醜態はさらしたくない。  俺がテーブルに空になったカップを置いたのを確認し、ルースはようやく表情を緩めた。 「さあ、行こうか」  そう言ってルースが、席から立ち上がる。 「どこに?」 「それはもちろん、魂を集めに、だよ」  そして悪戯っぽく微笑み、玄関へと続くドアへと歩みを進めた。  こうしてみると、俺より年齢が若そうだ。 「いやいや、行くとは言ってないし、というか、まだそんなファンタジーなことを」  言ってるなんて、もはや『湧いてる』などという言葉すら生ぬるい……  多分俺は、そんな吹き出しが見えるような顔をしていたはずだ。しかしルースは、そんな俺をよそに「どうぞ」といってドアを開ける。  その向こうを見て、俺は自分の目を疑ってしまった。  ドアの向こう側には、見慣れた玄関があるはず、だった。しかしそれが無い。  そのかわりにあったものは、闇の中にいくつかの光点が瞬いている、まるで、宇宙のような空間。  俺の頭も、とうとう『湧いた』か……  って、いや、ちょっと、おい、マジかよ。 「げ、玄関が……ない、ないぞ。なんだよこれ」 「ようこそ、ボクの城へ。コノエ、キミを歓迎するよ」  そう言うとルースは、右手を俺のほうへと差し出した。 「お、おま、ほん、に、に、」 「えっと、意味のある言葉を話してくれるかな」 「お前、本当に人間じゃなかったのかよ!」 「最初にそう言ったと思うけど」  何をいまさら――ルースはそんな顔で、俺を不思議そうに見ている。  黒いゴシックシャツから伸びる手の白さ、それ以上に白い顔と髪。よくよく見れば、どこか人間離れした整った容姿は、確かにルースが人にあらざるものであっても不思議ではない。  いや、そうなんだけど……伸ばされた手の意味が分からず、ルースの顔を見る。 「慣れないうちは歩きにくい場所だから。ボクの手を離さないでね」  ルースが何を言っているのか、目の前で何が起こっているのか、全く理解できない。いや、理解するのを脳みそが拒否をしているようだ。  ただ言われるままに、ルースの手を握る。するとルースは、目を細め、口元に笑みを浮かべた。  ひんやりとした、でも柔らかい手。  俺はルースに手を引かれ、目の前に広がる『謎空間』へと足を踏み入れた。

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