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十六夜の月に濡れて⑩
宮様の瞳に、一つ息を飲む。
それはまるで、俺がルースのことを考えていたのを見透かしたような――その残像を消し去ろうとするばかりの視線だった。
宮様がまた、俺とは反対の方を向く。長い髪が、宮様の細い体を俺の視界から覆い隠した。
服を脱ぐ。セーターとシャツと、そしてデニムのパンツ。アンダーウェアまで脱ぎ、宮様と同じく、生まれたままの姿になる。
宮様に近づき、そして、なぜと問われても答えられないことなのだが、俺は宮様の長い髪をかき分け、その背中を抱きしめる。
ふっという、宮様の吐息が聞こえた。
几帳の中はそれなりの暖かさであったが、宮様の体は冷たく冷え切ってしまっている。できるだけ肌が合わさるように、俺は宮様の体へと自分の体を密着させた。
「コノエの体は、温かきものぞ」
「宮様の体が、冷たすぎるんだよ。風邪をひいてしまう」
「コノエが我を、温めればよい」
宮様が体を俺の方へと向け、そして首に腕を回してくる。抱きしめると、おでことおでこ、鼻と鼻、胸と胸、そして男の証同士が触れ合う。
宮様がふと、驚いたような声を上げた。
「コノエも……硬く、なりたるや」
「宮様が、美しいから、かな」
「美し、とな。我は赤子にはあらぬぞ」
笑い気味に宮様が答える。なぜ赤子なのか……と訊こうとして、昔習った古典のことを思い出した。美しいとは、昔の言葉ではかわいいという意味だったような。
「ああ、えっと、麗し、かな」
「ふむ……我が、か」
「もちろん」
俺がそう返すと、宮様は顔を赤らめ、そして顔を横に向けると、「戯言を」とつぶやいた。
「嘘じゃないんだけど」
俺がそういうと、宮様は俺の方を向き、そのまま唇を俺に押し付けた。二人の唇が触れ合い、舌が絡まり合う。
俺はそのまま、宮様をゆっくりと寝床へと横たえた。長い髪が大きく広がり、まるで髪の毛の上に宮様が寝ているようだ。
さっきまでは月の光に青白く光っていた宮様の体は、今度は燈明の光を反射してオレンジ色に煌めいている。細い胸の下では肋骨の影が波打つようにできていて、さらにその下には、はち切れそうなほどに宮様のモノが硬くなっていた。
その根元すら、隠すものが一切ない――宮様には、毛がなかった。思わずその部分に、視線が釘付けになる。それは少し不思議な光景と言えた。
「然らん様に、我を、まぼるでない」
そう言って宮様は顔を背けると、自分の腕でアソコ……ではなく、胸を隠す。言葉の意味はあまりよく分からなかったが、きっと『そんなに見つめるな』と言ったのだろう。
「ごめん、あまりに綺麗で」
その言葉に、宮様はとうとう、腕で顔を隠してしまった。
「……をこ」
その隙間から、宮様がつぶやく。その言葉の意味を聞き返すのは、もう野暮な状況のようだ。
宮様に覆いかぶさり、胸の先端に舌を這わせた。
「は……あ」
声が漏れる。宮様が、右手の甲を自分の口へと押し付けた。
宮様の胸全体に俺の舌が這いまわる。そしてゆっくりと肋骨をなぞるように下へとおろし、おへそからさらに下へ進む。
その都度、宮様の口からは抑えきれなかった声が漏れ、それが次第に大きくなっていった。
目の前に、宮様のモノがある。それを左手で軽く握ると、宮様が悲鳴にも似た声を上げた。それを握ったまま、右手で床に置いていた水差しを取り上げる。
やはり……これを使うんだよな……
越えてはいけない一線。それを越えるための、魔法の『薬』。ドラッグとはわけが違うが、使うと後には戻れなくなるような、そんな気がした。
いや、たぶん、きっと、本当に戻れなくなるのだろう。
つと、宮様を見る。体を少しよじり、顔を横に向け、口に手を当てながらも、俺をじっと見つめている。その瞳、今はオレンジ色の光を反射しているが……その中で、宮様がいまだ持ち続けている『渇望』が、狂おしい程に踊っていた。
踊らされるのが嫌なのなら、自ら、踊りに加わるしかない――
ルースと会って以降、踊らされるようにここまでたどり着いた。考えてみればそこに大きな違和感が……まるでルースに踊らされているような、そんな感覚がある。
それに乗るのは嫌ではない。でも、どうせ乗るのなら、踊ってやろうじゃないか。
水差しを傾け、左手に少し油を垂らすと、宮様への『入り口』へと塗り付けた。
「ひっ」
宮様が目をつむり、顔をそむける。入り口の周りを撫でるように油を広げ、そしてその入口へと、中指を差し込む。
また宮様の口から、形容できない声が漏れた。
少し垂らしては、塗り付け、そして穴へと指を押し込む。それを繰り返していくうちに、指が深く、しかし滑らかに入るようになった。
「いい、かな」
宮様への確認。宮様は、俺に視線だけを向け、そして小さくうなずいた。
俺の手も、もう随分と油にまみれてしまっている。それを自分のモノへと塗り付けると、それを宮様のお尻の穴へと当てがった。
ゆっくり、ゆっくりと、それが宮様へと入っていく。生々しい程の肉感が俺のモノの先端を包み込んだ。
そこで、宮様が苦し気な嗚咽を漏らす。慌てて動きを止めた。
「まな。止むるで……ない」
顔を歪めつつも、宮様が俺に懇願にも似た目を向ける。その瞳には、宮様なりの覚悟がやどっているのだろう。
俺は「いくよ」と声を掛け、宮様の中へ、中へと、入っていった。
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