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人として、死神として⑥

 いろいろ有っただけに、ゆっくり考える時間が欲しかった。  ルースのことが気になって仕方ないが、ルースの元に行く手段がもうない。あの後すぐにクローゼットの扉を開けたが、扉の向こうには母親の衣類が並んでいるだけだった。  部屋の中でしばらくルースの名前を呼んでみたものの、何か反応があるわけでもなく、そこら中の扉を開けてみたものの、あの『宇宙空間』につながっている扉は一つもなかった。  そして俺は、途方に暮れた。 「風呂……でも、入るか」  湯船にお湯を張る。溜まっていくお湯を見ながら、あの世界の貴族連中は、風呂に入らなくて気持ち悪くないんだろうか、などと考える。  想像して、少ししかめっ面をしてしまった。  そして思い出す。綺美が放つ、むせるような体の匂い。それが、俺の性的な興奮を呼び起こしていく。  ルースとあんなことがあったのに……まったく、度し難いな、俺は。  ひどい自己嫌悪に陥ったまま、お湯が溜まった湯船の中に、俺は頭ごと体を沈めた。  しかし湯船の中でも、ごちゃごちゃになった頭の中は一向に整理されることはない。  このままルースが俺の前から消えてしまったら、俺は綺美と会えなくなってしまう。その焦燥と、この期に及んでもまだ打算的な自分への幻滅に、さらなる自己嫌悪が押し寄せた。  腕を伸ばしてみると、左腕の肘についた大きなあざが目に入った。押さえるとさすがに痛いが、動かすだけなら痛みはなさそうだ。これぐらいで済んで、本当に運が良かったと思う。  ルース……もはや錯乱状態という表現が当てはまるほどの状態だった。  ルースの望みは、俺が彼の『血』を飲むこと、なのか? 「いや、ちょっと、傷口から直接血を飲めなんてハードル高すぎだろ」とか、そういうレベルの話ではない。何か意味があることなのか、それとも、ただ彼の個人的で偏狂的な嗜好でしかないのだろうか。  そういや、彼が俺に飲ませた『お茶』は……  あの時は実感もなくただ適当に受け答えしてしまったが……わからない、わからなすぎる。ルースは何がしたいんだ? 何が彼をそうさせるんだ?  ただ、これだけははっきり言える。  あのルースの姿を見て、そしてルースに拒絶されて、だからこそかもしれない、「ルースに会いたい」という想いが更に強くなっていた。これは、綺美がいる世界に行けなくなるからなどという打算的な感情ではない。  そう、俺はルースに会いたいんだ……やはりルースのことを好きになっているのか?  自覚している自分。それを否定しようとする自分。  ルースがどれほど人間離れした綺麗な顔立ちをしていたとしても、ルースは男だ。以前ならそれだけで、自分がルースのことを好きになっているのかもなどとは考えもしなかっただろう。  しかし今は……そうじゃないと言い切る自信がない。  会いたい……あの狂乱したルースを、この腕で抱きしめたい……  綺美……ルースの口ぶりでは、綺美はルースの存在に気付いてるらしい。なぜなのか知りたいが、今の状態ではそもそも綺美に会う手段がない。  俺を、待ってるだろうか。  会いたい……あの縋るような、懇願するような碧眼で俺を見る綺美を、抱きしめたい……  俺の人生、なぜこんなにも不条理なんだろう。  彼女いない歴二十二年の末、やっとできた彼女に振られて五日目。  今度は、二人同時に好きになりましたってか? しかも、二人とも男で、片方とはもう結ばれていますだって?  全くもって、度し難い。  こんな不誠実で非道徳的な奴は、死んだほうがましかもしれない。  ……死んだら、地獄へのワンウェイドライブ、だな、多分。きっと。

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