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一人ぼっちのナイチンゲール⑤
目の前に、数多の光点が輝く、『宇宙空間』が広がっていた。フィスが作った『ゲート』のようなもの。もともとこの部屋の玄関だったものの先に、今はあるはずの青空はない。
「アタシは行かないわよ。自分で何とかするのね」
フィスは腕を組んで、にやにやと笑いながら俺を見ている。いったい何がそんなに愉しいのか、考えるだに恐ろしい。
「なんで気が変わったのか、気になってしかたないんだけど」
「そのうちわかるわよ」
そもそも『ゲーム』とはなんなのか。それについては、フィスは頑として教えてくれなかった。教えることは『ルール違反』なんだとか。
「ルースの居場所、俺に分かるのか?」
「さあ。何でもかんでもアタシが教えるとは思わないで」
そういいながらも、フィスは意外に何でもかんでも教えてくれてるのだが、それを言ったらまたむくれそうだ。
「『墓場』ってのは?」
「アタシたちのパーソナリティ空間。安らぎの場であり城でり。でも、あの子の場合、あらゆるものを埋めてきた『墓場』ね。アタシは他の連中とは違ってフェイクもトリックも嫌いなの。せいぜい『カミアン』には気を付けるのね」
それがフィスの最後の言葉だった。なおも聞こうとする俺を置いて、フィスが宙に溶けるように消え失せる。
後ろを振り返ると、丹波の姫君がいつの間にかいなくなっていた。きっと、俺の『中』にいるのだろう。気持ち悪くはないが、フィスの恐ろしい話を聞いた後では、早く『除霊』してもらわなきゃと少し焦りを覚える。
全て、ルースに会えば解決するだろう。
……多分。
解決するのか? ちょっと不安だ。
俺は意を決し、光点煌めく宇宙のような空間へと足を踏み入れた。
さて、どうやってルースの『城』を探すか。行ったことはあっても道はわからない。というか、道なんかないだだっ広い空間。まさに砂漠のど真ん中。たどり着くことができるだろうか。
でも今回は、ルースを試すような手は使いたくない。
俺自身の力で探し出すのだ。『墓場』の中で啼いている、一人ぼっちの迷い鳥を。
ルースの気配を探る。しかし、前の時と違って、ルースの匂いはそれほど強く感じられない。微かな残り香程度だった。
四次元的な視覚は、まだまだ思い通りには得られないが、かといって、ここに止まっていてもルースの『城』は見つかりそうにない。
手掛かりを探しつつ、家への『扉』を見失わない程度に周囲を巡回してみるしかないか。
時計を持ってくるんだった。そう後悔したが、戻るのはもどかしかった。
まったく……人外どものゲームに付き合わされるはめになったようだ。なんでこんなことになったのか。しかもルールも分からない、しかし観客ではない。プレイヤーなのかNPCなのかすら分からない。
というか、付き合うというよりは巻き込まれてるといったほうが正しいか。
思わずため息。
俺の中にいる丹波の姫君を何とかしてもらえたあとは、どうなるのだろう。
そもそも、俺がルースを追いかけるのは何のためだ?
姫君を何とかしてもらうだけなら、フィスに頼んでもよかったのかもしれない。なんか、ちょっとアレな方法だったけど、考えてみれば命を取られるってわけじゃなさそうだ。少しの間我慢していたらよかっただけじゃないだろうか。
……減るもんじゃないし?
そこで重要なことを思い出す。いや、忘れていたわけじゃないけど。
綺美……荒れ野に咲く一凛の花。誰にも触れられることなく、あの寂れた屋敷で過ごしてきたのだろう。哀れには思わない。男だけど、なんだろう、やっぱり俺は彼のことが好きなのだ。
またこの問題。綺美に会うためにはルースの力が必要だ。
打算。打算。
いや、世の中なんて打算だらけだ。
こう考えろ。ギブアンドテイク。ルースが欲しいものを俺が提供する。俺の欲しいものをルースに提供してもらう。
ただそれだけの関係。そう、俺とルースはただそれだけの……
「関係、なのかな」
いきなり声がかかる。ハッとして顔を上げると、悲しい顔をしたルースが、目の前で、じっと俺のことを見つめていた。
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