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その為に生き、その為に死ねるような恋をしよう④

「イミフだぞ」  俺はわざとそっけなくそう答えた。何が『じゅん』なのか、ちょっと考えるのが怖い。  そんな俺をルースは一睨みすると、コンと一つ咳ばらい。 「……キミにはボクたちの『ゲーム』に参加してもらう。依代じゃなく、ボクの『眷属』として。きっと、キミが想像しているより惨い目にあうだろうし、残酷な事実も知ることにもなる。それでも、後悔しないかい?」  再び俺を見つめたルースの目は、今まで見たことないほど真剣で、それでいて少し影が差している。 「眷属? んー、内容が分からないから、依代だろうが眷属だろうが、俺にとっちゃ変わらない。ルースを信じるよ」 「普通の人間には、もう戻れなくなる。それでも?」  ルースがまた『神様』の表情を見せる。しかし俺は、ゆっくりと頷いた。 「構わない。俺はもう『俺の世界』を捨ててきた。今更後戻りしようなんか、考えてないさ」  俺の言葉を聞いて、ルースもゆっくりと頷く。 「じゃあ、ボクと盟約を結ぼう。まず、そ、その、まずは……」  突然ルースが再び真っ赤になって顔をそむける。そして、レースの飾りが散りばめられた黒いゴシック風の衣装、その袴のようなボトムスの前を押さえながら、消え入りそうな声でつぶやいた。 「の、飲んで、くれないかな」 「はぁっ?」  なんだか急に現実に戻されるな…… 「な、何を」 「ボ、ボクの、その、あ、あのね、その、アレ」  流れる沈黙。オノマトペが目に見えるようだ。  アレ……アレか、アレなのか!? 「あー、えっと、その、なんだ……直接?」 「ちょ、ちょくせつが、い、いやなら、そ、そうだね、こ、こっぷにでも」  たどたどしい言葉は、その内容を考えるのが恐ろしい。 「ストップストップ! 言うな、それ以上言うな、分かった分かった」  ルースを手で制止した。  それ以上はあれだ、病院でやるやつになってしまう! 「あのさ、それ、『盟約を結ぶ』とやらに必要なことなのか?」 「え、えっと、必要と言われれば必要だけど、別にそうである必要はないんだけど、他に必要なことがないわけじゃないわけでもないから」  などと意味不明なことをなおも呟いている。俺はルースを精いっぱいのジト目で見つめた。  「ほ、ほんとだから。こ、こんなこと、初めてで、コ、コノエのせいなんだ、よ、きっと、ね」  俺と視線を合わせようともせず、ルースの目はいろんなところをうろうろしていた。 「おーけー、おーけー。ルースを信じると約束したんだ。なんでもするよ」  俺の言葉に、ルースの表情がぱっと、本当に、これでもかというくらいにぱっと明るくなった。 「ほ、ほんと?」 「ああ、もちろん」  俺の答えに、ルースは神様としての威厳など微塵も見せることなく、ゴシック衣装の紐をするりとほどいた。  ブラウスのようなものが自然に肩から離れ、純白の肩が露あらわになる。 「初めて、だから、優しく、ね」    そのままルースはゆっくりとボトムスも下へとずらしていく。ルースの生まれたままの姿が、俺の目の前に現れた。 「い、いや、脱ぐ必要あるのか?」  直視するのが何だか恥ずかしい。顔を背けつつ、目だけをルースの顔に向けた。恥ずかしそうに、ルースが胸と下腹部を手で隠す。 「ぎ、儀式だから。そ、それともボクの体は、見たくない、かな」  男の体を見て、果たしてうれしいのか……自分でもよく分からない。綺美の体は、実際のところ暗くてよくは見えなかったし。 「よ、よく分かんないけど、それが儀式だというなら」  取ってつけた理由のような気がするが、どのみち俺は今からそれを眼前に見据えることになる。この期に及んで男の裸の一つや二つ――  そう思い、覚悟を決めてルースを正視する。ルースは顔を赤らめながら、自分の体を覆っていた手をどけた。  こくんと、つばを飲み込む音が自分ののどで響いた。  透き通るほどに真っ白な体。まるでロマネスクの大理石像のようだ。  傷一つない体は無駄な肉というものが全く見られない。僅かばかりに浮かんだあばら骨が脇から胸へ。その上に二つ、桜色の点がきらめいている。  中心の筋が胸の真ん中からすっと下へと下がっていき、その途中にはかわいらしいおへそが影を集めていた。  そしてさらにその下――ルースが『男』である証がある。無駄な毛は一切ない。さほど大きくはないが、その存在を誇示するように、それは硬くまっすぐに伸びていた。 「綺麗、だ」  思わず口から、そんな言葉が出た。 「壊さないで、くれよ」  顔を真っ赤にしながら、ルースが両手を広げる。  壊れてる――自分自身をそう評価しながら、俺には壊すなという。 「逆説的だな」 「そうだね」  俺を見つめるルースの瞳の中で、再び『渇望』たちが踊り始める。  俺はルースの手に導かれ、下腹部へと顔を寄せた。

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