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その為に生き、その為に死ねるような恋をしよう⑤
その行為は、俺の想像した以上に俺の前に壁となって立ちふさがっている。
いや、壁なんてもんじゃない。山だ。
綺美との邂逅――俺は初めて、男性と交わった。それは、想像とは違い、結局のところ『女性とのもの』の延長に思えたのだ。
確かに、綺美の体の感触は女性のものとは違った。しかし言ってしまえば『入れる』という行為であり、暗がりだったこと、そして綺美を好きになっていたこと、それらが要因となり、さほどの抵抗感がなかったのだろう。
しかし、今はどうだ。
ルースが好きか? 好きだ。愛してる。
まだ出会ってそんなに経っていないのに、こんな感情を抱くのはおかしいのだろうか。でも俺はルースを愛してる。
でも、だ。この空間は光もないのにずいぶんと明るい。壁になっている繭のような白い靄が、発光しているから。
中性的な見目をしていても、服を脱げばルースは確かに男性だ。それが明るい光の下、俺の視界にさらされている。
ましてや、その証ともいえるモノにこんなにも近づいてしまえば――『男』なのだ。
これを、咥えるのか?
高い。ハードルが高すぎる。いかなルースのものでも、これは、これをしてしまえば、本当に俺はもう『ノーマルな自分』には引き返すことのできないように思える。
まさに俺の前に立ちはだかる『山』。エベレストも真っ青だ。これに比べれば、綺美とのニャンニャンなど、大阪の天保山か徳島の弁天山がごときで――あ、こいつら、日本一低い山ね。
「コノエ、そんなに見つめたら、さすがに恥ずかしいよ」
ふと顔を上げる。顔を赤らめたルースが俺をうるんだ目で見つめていた。
あ、あかん、これ、あかんやつや。今更ことわられへん……
「ご、ごめん。初めてで」
そりゃそうだ。
「キミの初めてを、ボクが経験できるなんて嬉しいよ」
うっとりした顔で、ルースが俺の顔をなでる。
「さあ」
ルースはそう促すと、俺をそのモノへと再び導く。
匂いは――ルースの匂い。木と土と。それに少しホッとし、俺は目をつむると軽く口を開けた。小さくはあるが硬くなったものが、俺の口の中へと……
オワタ、オレ、オワタ。もう戻れない。禁断のバラの園で一生踊り続けるんだ。
よし、なら、踊ってやろうじゃないか。踊らされるのはごめんだ。俺が、自分の意志で踊ってやる。
決意を固め、その先端から噴き出してくるであろう液体に、俺は身構える。
身構える。
身構え……
あ、あれ?
「ひゃ、ひゃやくひゃへほ」
出てくるものが出てこないのなら、催促するしかない。それもどうかと思うが。
しかし俺の言葉が分かったのかわからなかったのか、ルースが不思議そうな顔を見せた。
「いや、あのね、コノエ。お、おしっことは違うのだからから、『早く出せよ』って言われても、さすがのボクもそんなすぐには」
恥ずかしがっているような、戸惑っているような、そんなルースの表情。
「お、おい、ちょと待て。何を飲ませるつもりだ」
「な、何って、だから、その、アレを」
「どれだよ」
そこでようやくルースは、自分が伝えたかったものと、俺が認識していたものとが違っていたことに気が付いたようだ。
「言葉って、不便だね」
そういうとルースが恥ずかし気にも妖しく微笑む。そして俺の耳元に唇を寄せると、囁くようにこうつぶやいた。
「セ・イ・エ・キ」
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