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キャンパスライフにさよならを①

「ルシニアっていう名前だったんだな」 「そうだよ。変かな?」 「いや、意外にかわいい名前だなって」 「そ、そう、かな?」  白いネグリジェ姿で布団に入り、寝る体勢になっているルースが首をかしげている。  あれから二人で俺の部屋に戻った。  フィスが玄関作った『扉』はもうすでに無くなっていたので、ルースはまた、使っていない方のクローゼットを『世界を結ぶ扉』にした。  眷属になったところで、ルースのように現れたり消えたりはできないらしい。今まで通り地道に扉から扉へ移動だ。  ただ、あの宇宙のような空間の中での感覚は、劇的に変わっていた。  “見える”ようになっていたのだ。  目を凝らす必要はなかった。いくつかの扉の位置を四次元の超立体的に把握できるようになっていたし、今まで光の点でしかなかったものも、ある程度の形状まで見えていた。  移動も、今までよりもスムーズになっていた。  それらが何故かと言われても、そのような感覚になったとしか言いようがない。  正直なところ、「こ、これが眷属!」などと驚きの声を上げるような感動は全くなかった。 「俺、本当にルースの眷属ってやつになったのか?」  結局、変わったと言えばその『感覚』しかない。  目からビームが出るわけでもないし、相手の思考が読めるわけでもない。 「うん、なったよ」 「そっか……なんか実感がわかないな」  ルースがまた悪戯っぽく笑う。 「追々、それも分かるよ」 「追々か」 「そう、追々だね」  ルースはもうその話には興味が無くなったとでも言いたげに、あくびを一つする。 「神様も眠たくなるんだな」 「三次元世界でのこの体は、人間のと変わらないからね。コノエも、確かめたじゃないか」  布団にもぐりこんだ俺の鼻を人差し指で触りながら、ルースが艶っぽくささやく。少し頬が赤い。 「仮初めの体、か。人間にしか見えないけどな」 「ふふふ。もうボクのこの体は、コノエのもの、だよ」  ルースが俺の体に指を這わせる。下半身がすぐに反応してしまう。それをルースは感じたようだ。幸せそうに笑った。  まったく、そんな体に誰がした。 「嬉しいんだけど、さすがに今日はもう寝よう。疲れた」  俺の言葉に、ルースはふふっと声を漏らした後、布団にくるまり瞳を閉じる。  今日は本当に、いろいろ有り過ぎたようだ。寝よう寝よう。  綺美は、どうしてるかな。 「いててっ! 何すんだよ」  ルースが俺の鼻をおもいっきりつまんだのだ。 「ボクと一緒の時くらい、アイツのことは考えて欲しくないな」 「ルース、やっぱり俺の考えてること、読めるんだろ」 「読めなくても分かるよ。コノエはすぐに顔に出るから、ね」  そ、そうだったのか……ショックだ。ポーカーフェイスを身に付けなくては。  ルースの吐息を傍に感じながら、俺は眠りに落ちた。  ※ ※  目覚ましをかけた時間まで目一杯寝るつもりだったのに、目覚ましが鳴る前に目が覚めてしまった。  いつのまにか寝がえりをうっていたようで、目線の先には窓が見える。窓の外はうっすらと明るい。寝る時間はもう少しあるようだった。  背中に人の気配を感じる。こういうの、久しぶりだな。  あ、人じゃなくて神様か。  ルースも結構ねぼすけなもんだ、などと思いつつ、そっちを向いて抱き寄せた。  はち切れんばかりのムッチリバディ。  というか、ぱんぱんに張った筋肉。  ああ、これ、大胸筋ってやつだわ――それが、これでもかと言わんばかりに、俺に押し付けられる。  あ、あれ? ルースって、こんなに筋肉あったっけ。  いつの間に成長したんだ? ってか、神様って、成長するのか?  さすがに俺、マッチョは勘弁だよ――  目を開ける。  息のかかるくらいの距離から、俺を見つめる金色の瞳。  ウェーブのかかったダークグレーのロングヘアがダークグレーの顔にしどけなく掛かる。ライトピンクの唇だけが、浮き上がるようにその存在を主張していた。  その唇が、ゆっくりと蠢く。 「お・は・よ・う」

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