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危険な香り⑥
それは、そのモノは、痛いくらいに硬く張っていた。綺美は単衣を何枚か重ねてきてはいたが、それでもその上からでもそれと分かるほどである。
ちょ……
驚いた。意外に大きい。
ハーフなだけにハーフサイズだねなどと用意していた冗談が哀れに思えるほどだ。
俺の手の感触に、綺美がさらに体をこわばらせる。
やっぱり、こういう時って、してあげたほうがいいのかな……
そう思い、そしてまた驚く。そんなことが自然と頭に浮かんだからだ。
いや、これは相手が綺美だからに違いない。そう、そうそう、そうだよきっと。
綺美、『そういう気分』になっているんだろうか。
俺が帰ってきたから?
そう思うと、愛おしさがさらに増してくる。
ゆっくりと手を動かしてみた。
「コノエ……」
「我慢しなくていいよ」
「さようなことは」
そう言いながらも、綺美の口からとぎれとぎれに喘ぎ声が漏れる。
「綺美も、男の子だからさ」
「わ、我は、女子にぞ」
「そう育てられてきただけだろ。でも体は」
そのような『男性としての性欲』を嫌悪しつつも、持て余してきたのだろう。
「されど、されど、コノエは女子のほうが良きと思うてやおる」
「そんなことないよ。綺美は綺美だから。ありのままでいい」
「ああ、コノエ……」
安心したのだろうか、綺美は体の力を抜き、俺のされるがままになった。加えられる刺激に身をゆだね、声を大きくしていく。
そして突然、こちらを向くと俺を力いっぱい抱きしめた。
再び合わさる唇と唇。その隙間から、綺美の嗚咽ともとれる苦し気な声が漏れると同時に、俺の手の中に生暖かくもドロっとした感触が広がった。
その後しばらく、綺美は恥ずかしさゆえだろうか、何も話すことなく俺の胸の中に顔をうずめていた。やがて落ち着いたのだろう、ぽつりとつぶやく。
「時折、自らをえ抑えぬことぞある。我は、どこか壊れたるや?」
時々自分が抑えられなくなる――そりゃそうだろう。綺美の心は、戸惑いという感情で乱されているようだ。
「どこも壊れてないよ。それが普通だから」
「なれど、コノエを煩わせることに」
「そんなことない。我慢できないなら、俺に言って。俺が綺美を気持ちよくしてあげるから」
「コノエ」
ああ、綺美はなんてかわいいんだろう。
そ、そうだ。あの話題を出そう!
「俺たち、結婚するんだろ? だから遠慮なんかしなくていいから。少し待たせてしまったけど、今日は三日目だ。三日夜の餅の儀じゃないか。結婚だよ」
丹波の姫君の騒動で流れてしまってた、結婚の儀式。
きっと、『そ、そうだわね。ベ、別にコノエと結婚したいわけじゃないけど、してあげてもいいわよ』などというような意味の言葉を古めかしい言葉で言いながら、ツンツンデレデレするに違いない。元の綺美に戻るってわけだ!
そう思って出した話題。案の定、綺美はすぐに反応した。
「今宵は一夜目なるぞ」
そう、反応はしたのだが……あれ?
なんか、期待してたのと、違う……
「へ? もう二晩、一緒に過ごしたじゃないか」
「三日夜とは、続けてのことぞ」
どことなく冷めた反応だった。
いや、まあ、興奮気味だった綺美のトーンが少し落ちついたは良かったのだが、それ以上に衝撃の事実が判明してしまった。
三夜連続でないと、振出しに戻る……なるほど、その三日目の夜に俺がどこかへと行ってしまったのだから、綺美は少なからぬショックを受けたに違いない。
それならそうと、先に言っといてくれよ……
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