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這い寄る蔓の先に④

『ごめん』の意味を教えた後、綺美と一度だけ愛し合う。綺美の体は細いながらも柔らかい。あまり運動をしないから筋肉の付きも薄いのだろう。  ……筋肉のことは考えないようにしよう。  中に深く入れられた綺美が激しくあえぐ。その声の少しハスキーな響きと、どうしようもなく硬く大きくなった綺美のモノが、やっぱり綺美も『男の子なんだ』と思わせるが、もうそういうことは気にならなくなっていた。  綺美を気持ちよくしてあげたい。その一心で、腰を動かしながらも綺美のモノを同時に刺激する。  それが恥ずかしかったのだろう。綺美は顔を手で隠しつつも、こらえきれない声を漏らす。それがたまらなく愛おしかった。  二人で果てた後、そのまま二人で抱き合って眠ろうとしたのだが、相変わらず『キャノーラ油』にお出ましいただいていただけに、これ、もうちょっとなんとかならないかなと思う。  この屋敷には湯舟を備えた風呂場がない。定期的にする湯あみ以外は、毎日体を拭くだけだそうだ。風呂場が欲しいな――そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。  あまりに早い就寝だと自然と目が覚めるものなのだろうか、目が覚めた時、まだ辺りは暗かった。  俺は寝床から立ち上がり、服を着始める。 「行くのか?」  綺美も目を覚ましたようで、衣を被ったままこちらを見ている。 「少し出かけてくる。また夜に帰ってくるよ」 「べ、別に……待ってる」  綺美はツンを封印しているようだ。しかしそのことよりも、俺の言葉遣いを一生懸命真似ているのか、昨夜からところどころ現代風の言葉が綺美の口から出るようになった。それが、とてもいじらしく感じる。  まだ一緒にいたい気持ちがするのだが、今は我慢しよう。  今度こそ、三夜目にたどり着かなくては。その為にやっておくことを考える。  ルースに会って、色々確かめよう。あまりにも情報が少なすぎるのだ。  俺は綺美に口づけをすると、寝所から母屋を経て、廂に出た。  半月が空のやや高いところにいる。辺りを照らす光はそれくらいで、まだ日が昇る様子はない。  にもかかわらず、周囲の状況はよく見えるようになった。慣れてきたのか、それとも……これも眷属の力なのか?  庭への階段を降りようとして、厨の方に人影があるのに気が付いた。  影がゆっくりとこちらへ近づいてくる。  月明かりの元、水干装束に身を包み、髪を両サイドで束ねた少年が姿を現した。 「藤……」  その少年が桐ではなく、藤であることはすぐに分かった。  俺の言葉を聞いて、少年が動きを止める。そのまま体の前で手を組み、やや俯き加減の上目遣いで俺をじっと見つめた。  そしてしばらくの沈黙の後、少年がゆっくりと口を開く。 「近衛様。あの、あの、わ、私を……あなたの『妻』にしていただけませんか?」  か……か……か……  言葉の余韻が暗闇へと消えていく。そのまま辺りは再び沈黙へと戻った。  なんだろう、この、俺の頭に流れるものは。  クワーンとか、クオーンとか、そんな音。  藤の発した言葉の意味を理解するのを俺の頭が拒否している。一方、藤は真剣な顔だ。冗談を言って言う風には見えなかった。 「あ、いや、ごめん。いきなり過ぎて、何が何だか。意味が分からないんだけど」  両手の平を上に向けて広げると、俺は藤に『やれやれ』という仕草を見せたが、それを見た藤は、上目遣いをやめて目を伏せてしまった。 「い、一生懸命尽くしますので。炊事洗濯、料理も得意です」 「だからちょっと待って。そう言う問題じゃなくてね」 「お、お望みとあらば、よ、夜の方も、な、なんだってし……」 「待てって!」  声を荒げたわけではないのだが、俺の制止に藤は必要以上にびくっと肩を震わせたように見えた。 「どういうことか、説明してくれないと、わからないだろ」 「そ、そうですね、申し訳ありません。こ、ここではなんですので、厨の方で」  藤は目を伏せたまま後ろを向くと、厨の方へと歩いていく。  訳が分からないが、このまま放置するのもなんだろう。  俺は藤の後を追いかけ、歩き出した。

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