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這い寄る蔓の先に⑧

 光を背にするルースの表情は、暗くて読み取ることができない。しかし、その雰囲気には、ただならぬものを感じる。 「ルース、どうしてここに」  まあ、どうしてもこうしても無いのだろうけど……俺と藤との話を聞いてたのか。 「ボクの眷属にちょっかいをかけようとするカミアンがいるようなんでね」  藤はいつの間にか俺の後ろに隠れている。服をつかむ藤の手に力が入るのを感じたが、それは心なしか震えているようだ。  ルースがここに来た目的は想像に難くない。自分の恋人に言い寄ろうとする女を追っ払いに来た、なんて生易しいものでないはずだ。  相闍梨――あのヒーノフというカミアンとは、確かに俺を殺そうとしたというのもあるだろうが、ルースはヒーノフと戦った。フィスは、ルースとは既知の間柄だったようだが、それでも初めは戦いになった。  ならば、藤とも……  もしかしたら繰り広げられるだろう悲劇の回避方法を頭でひたすら考える。  とりあえずできることは……うん、これしかない。  時間稼ぎ。 「ルース、俺の眼を使ってものを見ることができるなんて、初めて聞いたぞ」 「すまない、コノエ。いろいろな説明不足は謝っておくよ」 「いや、聞かなかったのは俺の方だから。まあ、そのおかげで助けてもらったこともあるんだし……」  そこまで言って、自分の勘違いに気が付いた。 「あれ? ルースが助けてくれたのは眷属になる前だよな? その前から俺の眼を通して、ものが見えていたということか?」 「まあ、そう、かな」 「そうかなって、どういうことだよ。説明を……」 「それは、追々、ね」  ルースは俺の言葉を途中で遮り、まるで圧力をかけるかのように、言葉を一つ一つ出していった。  今は答える気がない。そういうことなのだろう。  そんなルースの気配に、俺は無意識のうちに藤を左手で自分の背後に隠していた。 「コノエ、庇うつもりなら止めておいた方がいいよ。キミがカレを庇ったところで、色々な意味で、意味がない」  まあ、そりゃそうだ。時間稼ぎというものは、時間が経てば状況が改善するときに用いる戦法であって――  ふと思う。ルースと藤、どちらが強いのだろうか。 「ルース、何するつもりなんだよ」 「もうゲームは始まっているんだ。邪魔をするカミアンへの対応は、一つしかない」 「この子は何も悪いことはしていない」 「良い悪いじゃない。そもそも、彼はキミを誘惑している。それだけでも討伐されるべきもの、なんだよ、コノエ」 「フィスだってそうだったじゃないか」  その言い返しに、ルースが眉を顰める。 「コノエは相変わらず屁理屈が好きだね」 「事実だろ」  ルースの様子。『まずい』というわけではないが、まるで舌打ちをせんばかりの表情を見せている。 「なるほど、ルシニアは今回もアンフィスと組んだのですね……性懲りもなく」  俺の背後で、藤がそうつぶやいた。その口調には少しばかりのほくそ笑みが含まれている。  それにルースが反応した。両手を宙に上げる。闇の中、眩い光が炸裂すると、それが消えた後にはルースの両手に鈍い光を放つ鉤爪が装着されていた。 「まあ、まてよルース」 「ボクを困らせないでくれ、コノエ。キミがそのカミアンの肩を持つ理由などないのだから。さあ、ボクのためにそこをどいて」  ボクのために――意地悪な言葉を使う。  逆に言えば、俺がここにいるとルースは攻撃しにくいというわけだ。  ……肉の壁だな。 「こっちはルールも分からず、放り出されてるんだ。ちょっとくらい、何をしたらいいか教えてくれよ」 「コノエには魂を集めてくれと言っておいたはずだよ」 「で、集めてどうすりゃいいんだよ」 「それはその時に」 「今言えよ」 「コノエは、恋人のボクより、その『男』を取るというのかい?」  ルースの声のトーンが一段階低くなった。そしてゆっくりと、一歩、二歩、こちらに近づく。  藤は俺の背中にしがみついている。  ……絶対、俺を盾にしてるよ。 「おい、藤。ルースとどっちが強いんだ」  無駄だとは思いつつ、小声で藤に聞く。 「もちろん、ボクだよ」  藤の代わりにルースが答えた。

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