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出会い 3

バカの考えることは分かっていた。 合図と同時に他のヤツらに鉄面皮の身体を抑え込むことに集中させ、そしてなぐる。 単純だが、悪くないやり方だ。 最初からこう来られたらオレもボコられただろう。 でも、まあ、こちらもアップデートしてるのでこんなのには引っかからないけどね。 今のオレなら、囲まれる状況をまず作らせない。 攻撃する気を高まらせる連中。 無反応な鉄面皮。 連中の興奮が高まっていく。 合図を待って。 「 ・・ 」 バカの口がひらいて命令が出ようとした瞬間だった。 オレもビックリした。 連中も何より命令をしようとしたバカが驚いただろう。 バカはバカなりに考えていた ちゃんと鉄面皮の腕の長さを考えて、自分は掴まれない距離に離れていた。 もし鉄面皮が誰かをなぐっても、誰かが殴られている間に他が取り押さえるつもりだったし。 でも。 その瞬間。 喉を掴んで持ち上げられていたのは、バカだった。 届くはずのない距離だったのに、片手で喉を掴んで持ち上げられていたのはバカだった。 鉄面皮は届かないはずの距離を詰めていたいつの間にか。 メキメキとした音がした。 鉄面皮は鉄面皮のまま、バカの喉を潰そうとしていた。 全く表情がなくて、その目にも一切の感情が見えない。 ガラスや鉄や石の冷たい質感がその目にあった。 うぐぇっ カエルが潰れたような声がした。 喉を締め付けられ、持ち上げられたバカが苦しんでいるのはわかった。 取り巻き達は固まってる。 自分達の王さまが殺されかけているのに、固まってる。 いや、無理もない。 彼らがするのは多少の痛みを味わうことになるかもしれないが、最終的には楽しいリンチの予定だったのだ。 生意気な新入生を痛めつけるこで味わえる勝利の感覚。 自分達の強さ。みたいなもの。 でも。 殺し合いまでは想定せずに始めた。 なのに一瞬で、何故か自分達のリーダーが殺されかけていた。 この時、オレも連中も悟った。 この新入生はオレたちとは違う、と。 コイツは本気で。 このバカを殺すだろう、と。 だって、その目は冷たくて。 何も写しちゃいなかった。 ただ視覚として見えているだけだった。 苦しみもがく、バカを。 片腕で、それなりにデカいバカを持ち上げたまま、その喉を締め続ける。 喉を潰す気なのだと、オレも連中も理解した。 連中は逃げた。 ヤバいからだ。 それは正解だ。 そしてオレは走った。 これは正解じゃない。 バカと鉄面皮の元へ走ってしまった。 だって仕方ないだろ。 バカはバカだし、最低なヤツだ。 イジメが大好きなヤツなんて生きていてもろくなもんじゃない。 また誰かを苦しめるだけだ。 だけど。 オレの目の前で殺されるとなりゃ、話は別だ。 オレが思い切り鉄面皮の脚に、水面蹴りをかましたのはそういう理由だった。 水面蹴りは、地面に這うように低く屈んで相手の脚を刈る技だ。 トリッキーだが、この場合、この鉄面皮を掴みに入るより、脚を刈って倒す方がいいとオレは判断した。 驚いたよ。 オレの予定では鉄面皮は倒れるはずだった。 でも、倒れなかった。 オレの蹴りにきた脚を、その脚は受け流したんだ。 当たったのに脚は流れるだけで、その身体は倒れない。 飛び退いたのはオレだ。 そんなはずがなかった。 脚は揃っていたし、倒れるもんなんだよ、普通は。 来るとわかっていたのならともかく!! コイツ、オレが蹴るその時に、脚にかけてた体重を蹴られてない脚だけに逃がしやがった。 オレは力の入ってない片足を蹴り、攻撃を流されたのだ。 ぶら下がってるカーテンを思い切り蹴ったみたいだった。 ただ布がオレの力に合わせて動くだけで手応えがない。 そんな感じだった。 ありえない。 片腕で人間関係1人持ち上げながら、そんなことができるなんて。 オカシイ、コイツ。 オレは焦った。 鉄面皮がオレを見た。 こんな目を見たことがなかった 人間が人間関を見る目じゃない。 無機質すぎた。 自分に向けられて、本当に恐怖を感じた。 こんな目をした15才なんてヤバすぎるだろ。 人間の目にこんなに魂の無さを感じたことなんかなかった。 でもオレは言った。 「そいつを離せ!!死んじまう!!」 オレは怒鳴った。 バカはもう失禁してた。 天国まではあと少しだった。 オレは立ち上がりそれでも、構えた。 分からない。 分からない。 コイツはオカシイ。 どうすればいい。 だけど、人殺しは別だ。 オレの目の前で殺しがあるのは駄目だ。 絶対に。 それだけは。 その時だった。 奇妙な変化があった。 鉄面皮の無機質な目に、色が差した。 造花がホンモノの花になるような。 人形が人間になるような。 それは数秒で起こった激的な変化だった。 「あなただ」 そうとだけ、鉄面皮が言った。 笑顔さえ浮かべて。 「見つけた」 そうとも言った。 そして、喉を締めて片手で持ち上げていたバカを、いらなくなったおもちゃみたいにその辺に投げ出した。 バカは気絶してるので、何も言わないで転がった。 オレは呆気にとられた。 何が起こっているのかわからなかった。 鉄面皮だったはずの男がニコニコ笑っていて、その笑顔があまりに無邪気なのでおどろいた。 「もうやめろ!!」 そう怒鳴った。 それでも。 「はい」 鉄面皮だったはずのソイツは素直に頷いたのだった。 そう。 そういう風にオレと後輩は出会った。 出会ったんだよ。

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