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出会い 4
懐かれた。
懐かれてしまったのだ。
どういうわけか。
「先輩」
そう言って背後霊みたいにオレの背後に「常」にそびえ立つ巨人。
ものすごくニコニコしている。
オレの隣りにいない時はいつも通り鉄面皮、らしい。
オレの視線を感じた瞬間笑うから、オレにはわからん。
なつかれた理由もわからない。
何せ突然懐かれた。
脚を蹴ったら懐かれた。
意味が分からない。
あの日、あの後、オレについてきた。
オレの家までついてきた。
走ってにげたのに、ついてきた。
とにかく足が速い。
有り得ないくらい速い。
オレも相当速いはずなのに、
「なんで着いてくるんだ!!」
オレは怒鳴ったのだった。
あの日のあの後の話だ。
とりあえずバカが死んでないのだけを確認して、放置した。
息は吹き返してたから大丈夫だろ、多分。
鉄面皮は鉄面皮をやめて、なんだか分からないけどニコニコしてオレを見てる。
先生達に見つかる前に逃げることにした。
元々バカとこの不気味な新入生のトラブルだ。
オレには関係ない。
バカを助けてやる義理もないんだ。
これ以上巻き込まれてたまるか。
オレはたったと逃げることにした。
そしたらついてくる。
ニコニコしながらついてくる
「なんだよ・・・こっちくんな!!」
オレは走りながら怒鳴った。
裏門を乗り越えて帰るつもりだった。
もう、今日は早く家に帰りたい。
「嫌です。一緒にいます」
走りながら息も切らさず、その新入生は笑顔で言った。
なんかゾワッとした。
無機質な目で見られた時よりこわくなった。
めちゃくちゃ笑顔で、言葉も丁寧なのに。
コイツオカシイ。
それは間違いない。
スピードを上げて走った。
オレはかなり速い。
でも、余裕でついてくる。
むしろ「遊んでくれるんですか」と犬が走る飼い主についてくるような喜び方で。
裏門をかけ登り、学校を飛び出した。
鞄とかおいてきたけど、どうせ、なにも入ってないからいいや。と思った。
オレはまあ、ちょっと平均よりは「少しばかり」小さいから身も軽い。
これはさすがにあのデカいヤツでは無理だろ、とおもった。
だけど余裕でついてきた。
平地でも走るみたいに門を駆け上がり降りていた。
その簡単すぎる感じに恐怖した。
コイツオカシイ。
重力も無視してやがる。
ニコニコ笑ってた。
遊んでる子供みたいな顔で。
それが怖い。
走って走って走って走って。
死ぬ程走って。
逃げきれなかった。
とうとう走れなくなって、町はずれの川沿いの道で寝転がった。
胸が痛い。
息が辛い。
もう走れない。
その寝転ぶオレの隣りに座って、そいつはオレをニコニコ笑って見下ろしていたんだ。
「なん・・・なんだよ、おま・・え」
オレはまるで、死に際に死神を見るような思いで言った。
「先輩」
そいつはそうオレを呼んだ。
笑ってた。
昔から会いたかった誰かに会ったみたいに。
「あなたについていきます!!」
後輩が勝手に誓った。
そんな誓いはいらなかった。
いらなかったんだけど。
もう走れなかったんだ。
「お前、何なんだよ・・・」
オレは悲鳴をあげたのだった。
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