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出会い 5

結局、その日はその新入生に背負われて家に帰るハメになったのだった。 オレはもう歩けなかったのだ。 「立てねぇ・・・帰れねぇよ・・・」 オレは呻いた。 膝を抱えてオレを嬉しそうに見下ろしている、この分からん奴なことは後でゆっくり考えることにした。 少なくとも。 今は実害がない。 だが立ち上がることも出来なかった。 体力の限界だった。 ニコニコしてるコイツは全然平気そうなのに。 「歩けませんか?送ります」 そう言ってアイツはヒョイとオレを横抱きにしやがった。 子供、いや女の子を抱えるみたいに。 お姫様抱っこだ!! キレた。 そんな風に抱かれてアパートの部屋まで連れて行かれるなんて、どんな羞恥プレーだ。 路上に一生寝ていた方がいい。 「おろせ!!」 怒鳴った。 指1本動かせないかと思ったがひっぱたいて、もう完全動けなくなった。 けっこういい音を立てたのに、アイツは殴られる瞬間に目すら瞑らず平然としていた 「抱っこは嫌ですか?・・・じゃあ」 背負われた。 渋々許した。 歩けないからだ。 オレには迎えに来てくれる友人も、家族もいない。 だから、コイツに頼らざるを得なかったのだ。 オレがこの一年、最低限以上の関わりを持ったのは、そういや、コイツが絞め殺しかけたバカだけだったかもしれない。 リンチに合わせられかけたが、少なくとも、それ以後はまあお互いに相手を認識した上で関わらなくしてるだけ、空気のような名前も知らないクラスメイト達よりは知っていると言えなくもない。 「先輩のお家はどこですか?」 何故かウキウキ聞いてくる、この奇妙な新入生にそれを言うのを悩んだが、コイツに害意があるならもうとっくにオレを何とでも、出来ただろうし、ならいいか、と思ってしまったわけだ。 住所を言うという過ちを犯した。 オレはコイツに関しては判断が甘かった後から何度でも、思うことになる。 だが。 まあ、それは後の話で。 オレは家を教えた。 アイツは歩いて2時間半位の距離を(オレがどれだけ走ったか!!)嬉しそうにオレを背負って歩き続けた。 なんでこんなに楽しそなんだとおもった。 ずっと話しかけて来るのを無視した。 なんだか、大きな背中で。 暖かくて。 揺れていて。 小さな頃、迎えに来たアニキに背負われて帰ったころを何故か思い出して。 あの頃。 オレにも。 誰ががいた。 「寝てていいぞ」 そう言ってたアニキの声を思い出した。 「待たせてごめんな・・・」 アニキの声。 いいんだ。 だってお兄ちゃんは迎えに来てくれたし。 オレは声に出さないで思って、安心してねむる。 オレは早く大きくなってしっかりしないといけないと思っていたから、こうやって誰かに甘えるのはこんな時位しかもうなくて。 アニキに背負われて眠る時間が実は好きだった。 オレはまだ。 5才だったのに。 でもそれを言ったらアニキだって17才で。 2人ともまだ子供だったのに。 でも、背負われて帰るあの道が、オレの一番安らぐ思い出で。 安心したんだ。 大好きなアニキ。 強いアニキ。 カッコイイアニキ。 12年上のアニキはオレの憧れだった。 まさか、また大きな背中におぶわれることなんて、思わなかったのに。 デカいデカすぎる男の背中に16のオレが子供のような気持ちになるなんて。 「寝てて良いですよ・・・」 アニキより低く掠れた声が囁いていた。 声は違ってもアニキが眠るオレを甘やかすような時の優しい声だった。 アニキは背中で眠るオレに一番優しかった。 甘えないオレが甘えているのがわかったいたんだろう。 16のオレは17のアニキのことを思い出して、切なくなった。 オレよりアニキはずっとずっとオトナだった。 でも暖かい背中は眠くて。 疲れてて。 「僕がちゃんと・・・全部・・・これからずっと・・・」 その後の言葉は良く聞こえなかった。 オレは良く知りも知らない、奇怪な奴、平然と人を殺そうとしていたような奴の背中で寝入ってしまったのだった。 どこまでバカだったのだろう、オレは。 まあ、オレも16だったし いや、でも。 バカすぎた、と今は思う。 ソイツはヤバイぞ、と教えてやりたい。 でもまあ、これは起こってしまったことで。 だから仕方ない。 仕方ないけど、なぁ。 まあ、とにかく。 うん。 この葛藤についてはいつかまた語りたい。 そして。 目覚めた時、オレは絶叫したのだった。 オレは。 オレのアパートの部屋で。 オレはいつの間にかバジャマに着替えていて、布団の中だった。 そして、何故か裸のソイツに抱きしめられていたからだった。 デカすぎてソイツはかなりの部分が布団からはみ出していた。 バジャマの上からとは言え、男の素肌に包まれていてオレは叫ぶしかなかった。 全身に鳥肌が立っていた。 恐怖だ。 恐怖しかない。 裸の男に、しかも、物凄い筋肉ダルマに抱きしめられてたら、他の選択肢はなかったのは当然だとおもう。 オレは言葉にならない声で叫んだ。 そして、それにソイツが目を覚ました。 恐ろしいことにパンツも履いてなくて、それが硬くて恐ろしくデカいことさえわかってしまった。 でも、普通の顔でアイツは言ったんだ。 「おはようございます、先輩」 枕元に置いてたメガネをかけながら。 オレを抱きしめたまま。 そして、ニッコリ微笑んだ。 鉄面皮はどこかへいったらしい。 あまりに普通なので。 堂々としているので。 言葉を失いかたまったのはオレだった。

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