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後輩 2

昼休み、オレは自分のベンチで寝ていた。 この学校でオレが勝ち取ったこのベンチで。 流石に今日はサボらながった。 教室にいる方が安全である、と学んだからだ。 教室はあの化け物からオレを守ってくれる。 オレはそれに感謝した。 家に押しかけられ、裸の男に抱きしめられて眠るとか、度を超えすぎてもうわけがわからなくなっていた。 あのおかしな新入生についての情報は勝手に入ってきた。 みんなその話でもちきりだった。 どのクラブにはいるのかが話題になってた。 いや、どれくらい掛け持ちできるのか、が。 チーム全体の為にならないと称して中学生では野球部とバスケは認められなかったらしいが、陸上と柔道では記録を出していた、とか。 父親も有名な柔道選手で、母親はスゴい美人女優だとか。 なんか、そういう話だ。 でも、誰も、真っ裸で他人の家で笑ってる変態の話はしてなかったし、言葉が通じないストーカーの話はしてなかった。 ただ、凄まじい身体能力を持つ、超人の話をしていた。 どこか遠い国の話みたいに。 誰もが何故昨日、アイツが入学式に出てこなかったのかを不思議がっていた。 それについては知られたくない、とオレは思った。 素っ裸でオレの家にいたとかなんか、知られたくない。 とにかく、新入生の話でもちきりだけど、おそらく、新入生をリンチしようとしていたバカ達は沈黙してると思われる。 リンチしようとしたことがバレるのも、逆に殺されかけたことがバレるのも困るんだろう。 この学校で後1年しかない権力の座を守り通すことこそが、あのバカにとっては大切なはずだ。 スポーツエリートへの手出しは禁物。 暴力を振るうべき存在が、何も出来ずにやられたなんて知られるのも禁物。 殺されかけたくせに、そこにはこだわるだろう。 バカだからこそ。 まあ、オレやあのバカとは全く世界が違う生き物なのだ。 オレらには分からん苦労はあるだろうが。 オレやあのバカみたいに要らないモノでも、存在を許されないモノでもない。 オレはつまらないところに考えが行きそうになったので考えるのをやめた。 オレ専用の、他の誰も使わないこのベンチで横になる心地良さを味わった。 オレがこの学校で得たものは、誰にも干渉されないことと、このベンチを使っていいのはオレだけにしたことだけだか、その2つはオレにはとても大切なのでそれでいいかと思った。 樹の下。 枝の隙間から空が見える。 ここが好きだった。 昼休みの生徒達の声が聞こえているはずなのに、どんどんそれが遠くなる感覚。 ああ、自由だ。 オレは捕まらない。 オレは自由だ。 「お前の名前は自由ってことなんだよ。自由に生きて欲しいって母さんが」 アニキの声が聞こえた。 その声を追い出す。 思い出したくない。 ただ、木の枝とその向こうの空を見る。 葉の影と、透ける陽と、青い空。 どこかへ行きたい。 ここではないどこかへ。 オレは。 自由になる。 そんなことを考えていた。 そう、子供だったから、自由の意味などわからなかった。 十分自由だったと思う。 オレにはオレに制限を加える大人など1人も居なかったのだし。 むしろ、放置された子供だった。 生活する金だけは与えられて。 その金はまあ・・・それはいい。 でもオレには力もなかったから、その無力感を不自由だと思っていたのだと思う。 オレは無力で。 どうすればいいのかわからない、子供だった。 子供だったんだ。 「先輩!!」 ぬっと、オレの上に大きな影がかかり、目の前に散々近くでみさせられた顔が、また眼の前にあった。 オレは突然すぎて悲鳴をあげた。 いや、気配も足音もしなかったんだって!! 唾が飛んでもアイツは顔を避けようとしない。 近い近い近い近い 鼻と鼻がくっつきそうな距離だぞ。 コイツの距離感おかしい。 昨日は裸で抱きしめられたし。 コイツおかしい。 またゾワッと鳥肌が立った。 でも、コイツがオレをどうにかしようと思ったら、昨夜いくらでもやりようがあったので、コイツはオレに性的な興味はないのだと思った。 こんな化け物相手に抵抗できるものではない。 だが1晩中抱きしめられてはいたけれど、なにもされてはいない。 むしろ、デカいデカい巨大な子犬が、甘えるつもりで襲ってくるような感じがコイツからはした。 今でもコチラを近すぎる距離で見ている目は、犬のような喜びに溢れていた。 「先輩、やっぱりここだった」 ニコニコ笑われた。 むしろキスされないのが不思議な距離で。 犬だと思ったなら耳が見える気がした。 「先輩、先輩先輩」 犬が鳴いていた。 でも、オレは飼えない犬に構う趣味などなく、大体犬など欲しくなかった。 オレは誰にも相手にされない奴らが動物だけに救いを求めるみたいなんが理解できない。 自分のために何かを飼うなんて、なんて不自由な連中だと思っていたからだ。 「向こうへいけ!!」 追い払うために怒鳴るのは当然だった

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