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後輩 4
騒ぎに集まった教師にオレは連行されかけ、それに逆上したバケモンが教師を投げつけて(マジ片手で投げてた)何故かオレがアイツを止めることになったり、大騒ぎになった。
オレは騒ぎはごめんだった。
オレは本当に困る。
オレのおじさんに連絡が行くのは本当に困る。
迷惑をかけない約束だったのだ。
オレはとにかく、できるだけのことをした。
精一杯最善の策をとった。
で、結果。
「先輩・・・」
帰り道、コイツがついてきている。
「仲良くなって、ちょっとふざけてたんですよ」
オレはそれで押し通したからだ。
「仲良しです!!先輩が大好きです!!」
アイツも熱すきるほど語りやがった。
授業をサボりはしても、成績はまあまあ、一般生徒やエリート達とは問題を起こさない、立場を知ってる不良であるオレと、スポーツエリートのコイツとどういう繋がりがあるのかは不思議がられたが、大事なスターを守るため、学校側はオレの言い分を飲んだのだ。
その方が都合がいい。
スポーツエリートが女の子に酷いことをしてもこっそりもみ消すような学校だからな、ここは。
不良よりスポーツエリートのがタチが悪いのだ。
でも、そのまま放課後コイツはオレについて来てしまった。
部活に行かなければならないだろうに。
どこに所属するにしろ、コイツはスター決定なのだから。
「部活に行けよ!!」
オレは言う。
「嫌です。先輩といたい」
まあそう言うと思ったよ。
だから今回は違う方法で説得を試みることにした。
「お前はオレとどうしたいの?」
率直に聞く。
「どうしたい・・・?」
アイツは首を傾げた。
良くわからないがオレととにかく居たいだけなのがわかった。
アニキが昔、野良猫に懐かれて家までついて来られたことを思い出した。
猫は離れようとせず、結局こっそりあのアパートで飼うことになった。
動物の中にはそういう飼い主を自分で選ぶやつがいる。
アニキが居なくなったら、オレを置いて消えた。
オレはアニキじゃない。
猫からしたら当然だ。
コイツも猫がアニキについてきた、そんなノリでオレについてきてる気がした。
言われて初めて悩む顔は子供だった。
よく見ればまだ15歳だとわかる。
デカいけど、隠しきれない無邪気さがある。
多分、見た目よりも子供なのだ。
このナリだから分かりにくいけど。
自分が11歳くらいだった頃のことを思い出して、その頃の自分に話しかけるつもりで話をすることにした。
「オレにくっついて、何がしたいんだ?」
オレはやさしく聞いた。
優しくした方が効果があると思った。
笑顔まで浮かべて言った。
子供に優しくするように。
それは確かに効果的で、なんか嬉しそうにソイツは笑った。
「わかんないです。でも、僕は先輩といたい」
すごくストレートに言われた。
「オレはな困るんだよ。お前に付きまとわれると。待て、泣くな、いいな、怒ってないから」
顔が歪んだので慌てて、止める。
街中だったからだ。
こんな所でこんなやつに泣き叫けばれてたならまた騒ぎになる。
「怒ってない、怒ってないんだよ?いいな?」
オレは落ち着かせる。
やはりコイツ、中身は。
めちゃくちゃ子供だ。
スポーツの天才あるあるだ。
囲いこまれて育つとこういうやつができる。
スポーツエリートが多い学校だ、こういう奴らを見てきたからわかる。
競技の成果しか求めて来られなかったから、どこかおかしくなってるんだ。
女の子に酷いことをしてもそれが悪いと思ってなかった野球部のエースもこういうところがあった。
女の子の方が宥められ、転校させられたのだという噂だ。
だが、コイツは少なくとも、オレに嫌われたくはないという想いはある。
少なくとも、そこまで自分勝手なままではないはずだ。
コイツはモンスターの子供だが、少なくとも友好的でありたいと思っているのは確かだ。
ここに、つけ入る余地はある。
「オレが一人暮らししているのは内緒なんだ。お前がオレについてきたら、お前を追ってくる先生や親にそれがバレる、するとオレが困る」
オレはオレが困ることを教える。
「オレはあの家を追い出される。オレは家がなくなる。そして学校もやめるしかない。ここから消えるしかない」
これは本当だった。
おじさんの家に住めるわけがないし、どこかに引き取られるとしても、そんな場所は嫌だったし、逃げるしかないから学校はやめるしかない。
アイツは呆然と聞いていた。
「先輩が消えるならオレも!!」
見当違いな結論を出されて焦る。
「いや、オレも学校はやめたくないの?いい?高校くらいは出てないと困るから。オレの人生の邪魔はしないで欲しいわけ」
オレは切々と解く。
「でも・・・でも・・・僕は先輩といたいです」
泣きそうな顔で言われた。
なんでオレといたいのかを聞いたところで、コイツもわかんないんだろうな、と思った。
自分の感情に振り回されている子供なのがすごくわかったからだ。
よく分からないが、オレの何かがこいつの感情の蓋を開けてしまったのだ。
それに振り回されているのだ、コイツは。
「とにかく・・・たまにならいいけど、オレにずっとついてくるのはやめろ」
オレは緩和条件を出すことで、事態の打開を狙う。
アニキの猫には言葉が通じなかったが、コイツとは言葉でやり取りが出来る、はず、だから。
「たまに?」
アイツは悩むように聞く。
「お前はちゃんと部活動とかして、自分の家にも帰って、その合間にならお前と会ってやってもいい」
部活させて、家に帰せばそこまでオレに構う暇は無くなるはずだ。
スポーツエリートはそんなに甘くはない。
毎日毎日、とにかく練習のはずだ。
「たまに泊まってもいいですか?」
子どもの顔で言われた。
「ちゃんと親に許可をもらったらな。オレが一人暮らししていることがバレないように出来るならな」
そう言ったのは納得させるためだけのためだった。
納得はできないけど、納得する、みたいな顔をソイツがしたので安心した。
「さあ、学校に戻って部活してこい!!頑張れよ!!」
オレは笑顔で励ました。
「僕、頑張ります」
真面目な顔でそいつは言った。
めちゃくちゃ安心した。
これでやっと離れてくれる、と。
「頑張ったら褒めてくれます?」
言われて笑顔で頷いた。
離れてくれるなら何でもする、と心から思っていた。
「僕、頑張ります。先輩のためだけに」
アイツはそう言って、走って消えた。
めちゃくちゃ速かった。
あの巨体があの速度で走るんだ。
アメリカのアメフト選手みたいだった。
オレはそして、やっとアイツを追い払えたことに安堵したのだった。
まあ、その考えが甘かったことをすぐに悟ることになるんだけどな
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