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後輩 5

毎日の昼休みと日曜日の夜には一緒に過ごすことになった。 意味がわからない。 わからないが言い出したのはオレなので責任を取らなければならない。 試合等があるなら別だが、それ以外は日曜日は基本休養日らしく、夕方からウチにやってくる。 ちゃんと親からの許可もとったとのこと。 どこの誰ともわからない上級生の家に泊まりに行かせるわけがないだろうと思った。 「自由にさせないなら自分の指を2本ほど切り落とすと言ったら大人しくなりました」 後輩はそう言って笑ったのだ。 納得した。 これくらいの才能になると、もう親にも子供の才能は財産でもある。 指二本は、単に息子の指二本以上の意味があるのだ。 子供に財産を盾にして脅されてしまったのだ。 こういう風にスポーツの才能が家庭を歪めることも、まあ良くあることなのだ。 その才能故の万能感に溺れたり、逆に才能を失うことを極度に恐れたり、才能がある子供達は自分の才能に振り回されるものだか、どうもコイツはそうではないようだった。 才能をどうでも良さそうに思ってるみたいだった。 でも、噂では練習は物凄いストイックにするらしい。 そう聞いている。 「別にしたいことがないからしていただけです」 本人に聞いたら出会った時の無機質な目をして後輩は言った。 「今は先輩のとこにいるのが一番したいことです」 と続けられたが、そんなこと言われてもどうでもよかった。 家に来てもべつになにもオレはアイツに構うことはない。 相手すらしない。 勝手に掃除して、勝手に洗濯して、勝手にアイロンかけて、勝手に料理をするだけだ。 コイツが勝手に。 手際がいいのは、全寮制の学校や合宿にいくためにちゃんと、躾られた結果らしい。 ウチの学校も寮は全国から集められたスポーツエリートばかりだ。 彼らは若い内から家族と離れて生活するし、遠征等も多い。 それを見越して育てられてたわけか。 寮には入らないですんだみたいだが。 「料理は好きです」 栄養バランスまで考えた料理を自腹で作ってくれるのは、まあ、ありがたかった。 布団はオレが買ってやった。 でないとオレの布団に入ってくるからだ。 寝る時の服も換えのパンツも買った。 まあ、食費がコイツのおかげでかなり浮いたのでそれはいい。 裸にしとくわけにはいかない。 コイツは中身はただの子供だか、外見はかなりヤバいもんを股間につけたモンスターなのだ。 定期的に来ることを許したおかげで、抱きつくこととかを止めろという指示も入るようになった。 抱きしめられることもなくなった。 というより、オレが好きなので好かれたいとおもうようになったらしく、オレが嫌がることはしなくなった。 構わなくてもいい。 オレとただいるのがいいという生き物は、オレにとっても楽になってしまって。 掃除や洗濯もしてくれるし。 まあ、オレもアニキの役に立とうと掃除や洗濯や料理を頑張ってたから、そうされるとなんか絆されてしまうとこもあって。 受け入れてしまっていた。 割と早く。 オレもオレで。 誘ってくる女の子を連れ込んで、するだけみたいな毎日に飽きてきてはいたんだ。 セックスは楽しかったけど、なんかそれだけにどこか乾いてて。 まあ、それでもたまには女の子としてたけど、女の子を連れてきた週は後輩が不穏になるので、オレの部屋に連れてくるのは止めてしまった。 後輩はこの部屋を勝手に自分とオレの部屋だとおもいこんでいるみたいだった。 犬だと思った。 アニキは猫に選ばれたが、オレはこの犬に選ばれたとんだと。 デカいデカい犬は、段々可愛いく見えてきたから怖い。 「先輩、先輩」 そう呼ばれて。 なんかポツポツ話をするようになって。 アイツは聞いたことは何でも答えたけど、自分からは話かけてくることはなかった。 話すことがないんだと分かったのは、しばらくたってからで。 ただ望まれるまま、生まれてきてからそうしてきただけだったんだ、と知った。 異能の才能はすぐにわかる。 もう幼少期から人とは違うコイツはすぐに道を定められ、それ以外が与えられなかったのだ。 父親もまた、スポーツエリートだったから。 練習と試合の繰り返し。 それしか知らない。 「ただ、するだけです。することを」 そうとしか言わなかった。 それで出来ちゃう時点で天才で、それを色んな人間が渇望してるのだろうけど、そんなのアイツにはどうでも良かった ただ、していただけだったから。 「でも頑張ったら褒めてくれますよね」 そう言うから褒めてやった。 それが欲しいんならやってもいい。 なんだろうな。 段々。 コイツがオレも気に入ってきていたんだよ。 わけわからないけど。 ただただ無邪気に慕われりゃ、悪い気はしないだろ。 まだ分かってなかったし オレも16才の子供だったんた。 なんだってオレの言うことを聞く、飼い犬がいるのは悪くない、とか思い始めていたんだ。

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