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関係 1

「先輩はなんで1人暮らしなんですか?」 とうとうその日、そう聞かれた。 高校生のガキが1人で暮らしているのはオカシイという常識くらいはアイツにもあったらしい。 「親兄弟が死んだから」 オレはそうとだけ答えた。 それだけでは不十分な答えだったとは思う。 生きていくには金がいるのだ。 なのにバイトもしてないのにオレはさほど生活に困っているようには見えなかっただろうし。 おじさんがいることは言っていて、本当はその家に住んでることになっていることは前に言ってはいたけれど。 アイツがここに来るから事情ぐらいは知らせておかないと、何かの時の口裏合わせに必要になるかもしれないからだ。 「ここにずっと一人で?」 アイツは聞く。 「そうだ」 適当に答える。 「でもここは・・・」 言いかけてアイツはだまり、オレは目だけでその先を続けさせ、言わせた。 答えるかはともかく、途中で黙られるのは気持ちがわるいからだ。 「ここは先輩1人だけの匂いじゃない。誰かがいた痕がある」 アイツはキモいことを言った。 匂い、はさすがにキモイ。 でも、それは事実だった。 タンスの中のオレのにしては大きい服。 玄関の靴箱の中のオレのサイズじゃない靴。 入り浸っていればわかる。 オレの読まないような本。 1人にしては多すぎる食器。 アイツのために布団こそ買い足したけれど、毛布やシーツは何故かあった。 それらからオレ以外の臭いがした、というのはさすがに。 でも、アイツも何かしら家にある物から推測したのだろう 「アニキと住んでたんだよ、でも死んだ」 そうとだけ言った。 それくらいはいいだろうと思った。 それはいつもの事後のアイツがやたらと甘えてくる時の話で。 アイツはそれを聞いて何も言わなかった。 黙って抱きしめられたのはいつもの甘えている時のとは違うと思った。 慰めだとか余計なことを言ったなら許さなかったと思うけど、何も言わなかったから。 ただ包みこまれただけだから許した。 「好きです」 ただ囁かれたその言葉にはどれだけの意味があったんだろう。 親兄弟を失った少年と、世界に他人を認識できない少年。 寄り添っていたのは寂しかったからなのかもしれない。 オレは1人でも生きていけると思ってたし、そう、大体なにもかがどうでもいいと思っていたのだけど。 本当は寂しかったのはオレだったのかも知れない。 アイツは孤独が当たり前だったからこそ、まだ孤独の意味なんて知らなかったんだから。 アイツは初めて感じとれる他人に夢中になっていただけで、寂しがっていたのはオレだけだったのかも知れない。 だから腕と胸に込まれて、安心して寝たりしたんだと思う。 本当は好きだった。 抱きしめられて眠るのが。 アニキがいなくなって以来初めて、アイツにイカされ抱きしめられてからやっとぐっすり眠れるようになったというのはアイツには教えてないこと。 それが好きだというのも。 「試合来てください。先輩のためだけにがんばりますから」 その声を甘いと感じたのも。 「うるせーよ、寝ろ」 そうしか答えようがなかった。 オレは何も持っていない子供。 アイツは持っていてもその意味が分からない子供。 その差のことを、オレもアイツも分からなかった。

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