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関係 2

試合会場に来るのは久しぶりだった。 その雰囲気も知ってた。 会場の隅でウォーミングアップをしている選手、先輩の試合の応援する選手、目当ての選手の試合を見る選手。 地方の大会だから、応援は少ない。 選手の学生達と指導者ばかりの会場だ。 目立たない格好で来たつもりだけど、それでも、オレのチャラさは目立つらしい。 でも、会場の女の子達がオレをみて小さくきゃあきゃあ言うのも、それを見た男達がムスッとするのも想定内だ。 なんなら軽く女の子達に手を振って、さらに男達をムカつかせたのも想定内だ。 オレはモテない男を怒らせるのが大好きだし、もう女の子では満足出来ない身体にされてるな、とは自分でもおもうけど、女の子にモテること自体は大好きだ。 柔道部はモテない。 モテない奴らにモテるところを見せつけるのはとても楽しい。 なんならと、ちょっと話しかけて、女の子達をうっとりさせて、それを嫉妬する男達の視線を楽しんだ。 オレはなんと言っても。 顔がいい。 まあ、そこは間違いない。 少しばかり背が低いだけで。 背が少しばかり低いのも、完璧じゃない方がモテるしな。 試合が始まる前の会場をそうやって楽しんだ。 でも、久しぶりに中学時代の先生に出会ってしまったのは想定外だった。 「 !!」 名前を呼ばれて驚いた 今、オレの下の名前でオレを呼ぶヤツは、セックス中のアイツくらいだから。 アニキはもういないし、親しい者ももういない。 振り返ると先生がいた。 卒業以来だった。 「久しぶり・・・試合・・・なわけがないか」 複雑な顔で先生は言った。 可愛がってくれた先生だった。 アニキもオレもおしえてくれた中学時代の顧問の先生。 アニキに憧れてオレは柔道をしていた。 オレも中学まではここにいるこいつらと同じように大会に参加していたのだ。 まあ、オレは。 こいつらと違って女の子にモテてたけどな。 中学でも、柔道部でも。 「お久しぶりです」 オレは素直に頭を下げた。 「・・・元気そうだな」 先生は軽く染めた髪、街でなら浮かない服装を見ながら言う。 残念がってくれているのはわかる。 わかるけど、もうどうでもいい 「後輩が試合に出るんで」 ここにいる理由を悩んでいるだろうから教えてやった。 「そうか・・・」 先生はそれでも笑った。 複雑そうな笑顔だったがそれでも笑った。 嬉しそうだった。 この人は。 良い人だった。 「また・・・」 そう言いかける声を、首を振って止める。 オレはもうしない。 しないんだ。 柔道は。 「そうか」 先生はそれ以上言わなかった 「アイツ、 じゃね?」 「 だろ?」 先生といたせいでオレに気付いたヤツらも出始めた。 今の姿だと分かりにくいはずだが、何よりオレは顔がいい。 覚えられているのは仕方ない。 何人かがチラチラオレを見てる。 ヒソヒソした声もする。 オレは慌てて会場の外に一旦でることにした。 オレは。 後悔し始めていた。 なんで来てしまったんだろう。 オレは中学生時代はそれなりに期待された選手だったのだ。 まだ覚えているヤツらもいたのか。 会場には、オレが捨てたモノがあった。 熱気とか、勝ちたい思いとか、あこがれとか、敗北とか悔しさとか。 ただ生きるだけの毎日ではないモノが。 なんで来たんだろう。 オレがため息をついたときだった

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