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関係 3
「先輩!!」
アイツの声がした。
でかい声だ。
振り返ると柔道着姿のアイツに後少しで抱きしめられるとこだったのて、蹴る。
人前で何するつもりだ!!
だが、重い肉体は鈍い音が響いても、全く動じなかった。
まあ、本気で蹴ったわけではないが、試合前の選手に蹴りを入れているので、近くにいる人たちの空気が変わった。
有名選手が試合前に蹴りをいれられているのだ。
なんなら携帯のカメラが向くところだ。
だが、違う意味で連中はザワついた。
アイツが笑ったからだ。
満面の笑顔。
殺戮兵器
ロボット
マシーン等と揶揄されているアイツが、笑ったのだ。
勝っても笑わない、常に無表情なアイツが。
オレには笑うアイツが当たり前になっていたけど、やはり他ではありえないことだったらしい。
「来てくれて嬉しいです」
アイツはそう言って顔をくしゃくしゃにした。
「先輩がいるなら、こんな試合にも意味があります」
嬉しそうにこの会場で頑張っている人間達を踏みつけるようなことを言う。
「あ。そう」
オレはちょっと複雑。
オレはこの会場で頑張っている側にいたことがあるから。
でもコイツの言いたいこともわかる。
コイツには頑張るも頑張らないもないわけで。
ただ、やることがあるだけの話なので。
それに誰よりもやることというか、やれることを真面目にやってるのも知っているし。
あんな肉体。
努力してなかきゃ出来ないだろ。
才能とかだけじゃない。
筋肉とかの話じゃない。
手のタコとか。
皮膚が擦れたキズとか。
テーピングした足とか。
「痛みとか苦しいとかは自分のモノだからわかるんです。それを感じとれるのはまだ実感を得られるので嫌いではありません」
そうアイツは言ってた。
痛みとか苦しさすら感じないと、自分が本当に存在しているの分からなくなる時があるらしい。
アイツが練習に打ち込む理由はそこにもあるみたいだ。
自分が存在しているのかを確かめたい。
「先輩を毎日抱けるなら、別にそんなものは」
そう言われたけど、それは拒絶した。
そんな恐ろしい。
それに何より、そんなの誰も許さない。
子供二人が世界から閉じこもるなんて。
アイツは世界なんかを知らないから、なんなら世界なんかあるんだったら壊れてしまえばいいと思っているところがあるから、平気だろうけど、オレはごめんだ
アイツとセックス紛いをするのは好きだったが、それで世界を終わらせるつもりはなかった。
積極的に生きる気もなかったけど。
オレは死んだアニキのことで拗ねているだけの。
子供だったから。
アイツと一緒に破滅するほどのことは考えていなかったんだ。
でも、とにかくアイツが笑ったから。
めちゃくちゃ笑ってるから、周囲に生まれたオレが有望選手を足蹴にした緊張はその衝撃で消えてしまった。
「生きてたんだ」
「生物だったんだ」
「笑えるんだ」
アイツは失礼なことを言われまくっていたけど、わかる。
初めて会った時の無機質な目。
この人間に魂があるのかとおもったもんな。
「もうすぐ・・・試合だろ・・・行けよ」
オレは言った。
午後からの重力級の試合。
それに出るのだともう知ってた。
アイツは笑顔で頷く。
オレが来てくれたのが本当に嬉しいのだとわかる。
ちょっとオレもつられて笑ってしまった。
「先輩、笑った」
アイツが目を丸くして、自分がコイツの前で笑ったことなどなかったと知る。
そして、そう、今は笑ってしまうことも。
「先輩・・・笑顔・・・カワイイ・・・」
アイツが壊れたみたいにカタコト言って、デレデレし始めてたので、とりあえず殴って直す。
周りがまた息を飲む。
有名選手への暴力というだけじゃなく、コイツという化け物に暴力を振るうということへの恐怖でもある。
初めて向かいあった時にコイツに感じた恐怖を周囲は持ち続けていて、それがオレにはもうないのだとオレは思い知った。
オレはコイツが怖くない。
全くだ。
それはコイツをどれだけ受け入れてしまっているかで。
コイツにオレは笑い、コイツを恐れない。
そして何より、絶対に来なかっただろうこの会場にオレは来ている。
その意味をオレはつきつけられて、オレは焦った。
「僕、頑張ります」
そう言われたことに、なんかときめいたことも含めて。
ヤバい。
アイツへの想いがあることを知ってしまった瞬間だった。
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