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崩壊 6
欲しかった。
自分だけを愛して、絶対に自分を捨てない存在が欲しかったのはオレだった。
アイツを手に入れて。
それにおぼれて。
そのままでいたかった。
でも。
罪悪感が許さなくなってしまったんだ。
だって。
間違っていた。
「誰かに言ったことは?」
オレはその日とうとう始めてしまった。
そうするしかなかった。
土曜日の夜からのたっぷり抱かれた後の日曜日の朝。
アイツは幸せそうに、オレの穴から舌や指で出した精液をかきだしているところだった。
中に出すことまでその日は許してしまってて、許された犬は何度も何度もオレの中を満たしたのだった。
その後始末さえ、喜んでしていた。
「ないですよ。先輩にだけです」
オレ以外の全ての人間が現実感がないことを誰かに言ったのかと聞いたなら、アイツはそう答えた。
あっさりそう言って、そんなことはどうでも良さそうに、アイツは指や舌でオレの中から掻き出していく。
「あっ・・・あっ;・・・・」
オレはその行為にまた感じてしまう。
それを見てアイツはよろこぶのだ。
アイツは後始末さえ大喜びでする。
奥深く放たれた分はホースで、洗浄するしかない。
風呂へ抱いて連れていかれて、その前に掻き出す名目でもう一度くらいペニスで挿入されるがいつもの流れだ。
「・・・医者に行こう」
それでもオレは言った。
アイツは変な顔をして、舐めるのや指で掻き出すのを止めた。
「精神科に?何言ってるんです?」
アイツは憤然としていた。
自分の恋を精神状態のせいにするのか、と。
「違う・・・脳神経外科だ」
オレは言った。
確信があった。
アイツのその「自分以外の人間が存在しないように感じる」ことは、脳の何らかの症状ではないかと。
まだ両親が生きていた頃、
祖父が脳梗塞で倒れた。
意識を取り戻した祖父は家族が別人であると主張した。
オレや両親や兄貴が偽物だと。
自分が知っていた全ての人間が何か別のモノと入れ替わったのだと。
医者は「脳の損傷のためだ」と説明した。
幸い、祖父のその症状は数ヶ月で回復した。
脳の他の部分が数ヶ月かけて、傷ついた部分を補ったのだと聞いた。
「本当に家族ではない何か、生きてない何か、存在しないモノのように感じられたんだよ」
祖父は後にそう語った。
偽物の世界に一人いるような気持ちになったと。
まあその年の終わりに亡くなったんだが。
両親と一緒に車の事故で。
オレが。
この結論に至るまでは早かった。
その実例を知っていたから。
脳の損傷によって、自分以外が存在しないように感じられること。
知っていたのに、中々動かなかったのは。
まさか、という気持ちがあったのは少しだけ。
あとはオレがずるかったからだ。
オレはすっかりオレだけを愛するコイツが。
コイツを。
自分だけのモノにしたかったんだ。
でも。
オレの精液を掻き出すことさえ喜ぶコイツを見てたら、なんかもう。
オレ以外には触れてはいても、実感としては感じられないコイツが、オレが相手だと、体温や味や触感が実感としてわかると喜ぶのをみていると。
自分の卑劣さに耐えられなくなった。
オレしかいない世界に留めておくことに。
恐らく脳にある損傷がコイツをそうしてる。
それを知ってて黙ってて、コイツをオレに縛り付けているのってどうなんだ
治らないかもしれない
少なくとも子供の頃から今までそうにだから。
でも治るかもしれない。
俺以外も現実として認識できるかもしれない。
そのためには医者と相談する必要はあった。
「病院に・・・行こう」
オレは怪訝な顔をしてオレの股の間から、オレを見上げるアイツに言った。
アイツが現実感を取り戻したら。
いくらオレが顔の良い、とてもカッコイイ、とてもモテる男でも、こんな風にもうコイツはオレのを舐めたがったりしないかもしれない、そう思った。
他に食べ物がないみたいにオレに狂ったりしなくなるかもしれない、と思った。
「先輩、お言葉ですが・・・」
物心ついたときから、それが当たり前なアイツが反論しようとする。
脳のせいだなんて思ってないから。
アイツにはそれが普通だったから、祖父みたいに騒がない。
でも、それももうオレはわかってるから。
「月曜日、病院に行こう」
でもオレはもう決めていた。
何も言わせない。
アイツは不服そうだが、オレには逆らわない。
「もう1回、しよう?」
オレから誘った。
いつもは穴を舐められ掻き出され、なし崩し的にされるのに。
アイツは「病院」には納得できないようだったけれどら、許されるのならずっとオレの中に入っていたいと思っているから、喜んでまた突き立ててきた。
「先輩・・・好き。大好き」
美しい大きな身体が、オレを貫き、動く。
熱い声に囁かれる。
脳が原因だったなら。
それが治るなら。
治ってしまったなら、もうこんな風にオレを抱いたりしないかもしれない。
この世の中にただ1人しかいない人間ではなく、ただの顔のとても良い先輩でしかくなってしまうのかもしれない。
女の子達のがよくなってしまうかもしれない。
そう思ってしまうと怖かったのはオレで。
そこから際限なく欲しがったのはオレで。
「もうダメです・・・あなたをこわしてしまう・・・」
そう泣かれても、させたのはオレはだった。
その日まで。
確かにオレはアイツのたった1人だった。
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