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忘却 2

世界がどう終わったかについては語れない。 語ることができない。 でもそれまでの話ならできる。 アイツが居なくなって。 でも、オレはヤケにはならなかった。 だって。 オレは勇気があった。 オレはアイツが居なくなってしまうかもしれない、オレだけを見てくれなくなるかもしれない、とわかっていて。 アイツの世界を開いたのだ。 このまま黙って、アイツを独り占めするのではなく。 オレは。 オレは勇敢だったよな。 オレはちゃんとやり遂げた。 そう、兄貴とは違って。 ・・・兄貴が死んだのはオレのせいでもあるのに、オレは兄貴をこういう風に責めてしまう。 そんな自分は嫌だけど、だけど、このことに関しては兄貴も死んだ両親も、じいちゃんも文句は言わないはずだ。 良くやった。 そう言ってくれると思う。 オレは。 また愛する人間を失ったけれど、でも、愛する人に世界をあたえたのだ。 1人しか存在しない世界だけじゃない、世界を。 オレはそのことについては胸を張り、でもそう言いながらも落ち込みながら、学校とジムに通った。 学校は前よりかは多少真面目に。 ジムはさらに真面目に。 顔がいいから、誘ってくれる女の子とたまには寝た。 そこは寂しかったから。 でも、女の子にたいして、愛してはいなくても誠実であろうとはした。 「好きなヤツがいるけど、いい?」 そう聞いてからで、そして、一度以上は寝なかった。 まあ、結局女の子じゃ足りなくて。 最終的には男と寝た。 男の方が女の子より気を使わないですんだし。 割り切ってくれるから。 それに何より後ろでイクのは男相手じゃなきゃダメだった オレの身体はアイツに思い切り変えられてしまってて。 前だけじゃ物足りなくされてしまってたんだよ。 男が好きなわけじゃないけど、男とするしかないという矛盾。 乳首を弄られながら、奥まで突かれてイキたかった。 まあ、そういう女の子は中々いないし、何より特別な関係にはなれないわけだし。 男のが早い。 でもだからこそ、男となら恋愛の匂いのないセックスはできた。 相手のいるオナニーとして。 オレはオナホで相手はディルドだった。 容赦なく使われて、容赦なく使うセックスはそれはそれで良かった。 アイツの名前を呼んでイキ狂ってもよかったし、そんな自分を罰してもらうために、酷くされるのも良かった。 もちろんあくまでも、練習に支障のでない範囲で、だ。 オレは、格闘技を愛していたから。 恋は失ってもこれはまだある。 アイツといたから取り戻したものだし。 そんなわけで女の子とは違って、男相手では、定期的にセックスするセフレを作った。 でも、少人数としか寝てない。 しかたなくだったから。 まあ、男相手でも足りなかったけど。 だってアイツじゃない。 ヤケにはならず、足りないなら足りないまま。 セックスはどうしてもしたい時だけ。 どうせいくらでかいので塞がれても。 どうせ足りない 欲しいのはアイツだったから。 どんなに激しく後から突かれてもアイツじゃない。 奥までとどいて、その突き当たりをぶち抜かれてもアイツじゃない。 快楽では足りない。 でもたまに男に抱かれて。 ボクシングをして。 卒業してからもそうで。 働きながらボクシングをして。 たまにセックスをして。 もう世界的に有名になっていたアイツをテレビで見てた。 アイツが防音したオレの部屋で。 アイツはやはり1つの競技では留まらず、複数の格闘技で試合に出ると言うことをしていた。 どちらも日本では優勝してて。 国際試合はどうするんだ、とか、陸上競技で記録を作ってしまったのはどうするんだ、とか。 相変わらず話題の中心で。 でも。 もう。 無感動なロボットではなかった。 ちゃんと笑ってた。 「脳の緊急手術を受けて、カムバックしてから人が変わったように」 みたいなことを言われてた。 変わったのはアイツではなく世界の方なんだ。 オレはそう思いながら。 アイツをみながら。 オナニーしてた。 オレだけを愛してくれた。 オレだけだった、ただ一人の男。 忘れられるわけもなく。 他の誰かじゃダメだった オレはワガママになってて。 もうアイツじゃないとダメだった。 画面のアイツをみながらするオナニーが一番気持ち良かった。 デカイディルドを自分で挿して、デカイ声で喘ぎ声ながら、アイツの名前を叫つづけた。 オレだけのアイツはいない。 もう忘れられてる、としても。 それでも。 それでも。 後悔はしてなかったんだ。 オレなりに頑張ってて。 そこそこ注目されるボクシングの選手になってて。 何より顔が良いからね。 そこは間違いない。 アイツと道が交わることがなくてもいいか、と思ってたんだ。 アイツも戦っててオレも戦ってる。 それだけで。 だけど。 世界が終わった。 終わったんだ。 その時にオレが死ぬ時に思ったのは。 激しい後悔だけだった。 こんな風に終わるのなら。 終わると知っていたなら。 アイツを手放さなかった。 だから。 世界が終わった後に、「巻き戻し」が起こったから。 オレは。 アイツを探しにいったんだ。 世界が終わる前にアイツを取り戻すために。

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