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巻き戻し 2

オレは、ゲロだらけになった部屋と自分を綺麗にすることから始めた。 そして、まだ震える身体で冷静に考えてる。 世界が終わる日付をノートに書き出した。 丁度1年後だ。 世界の終わりにつながることは書けなかったが、それ以外のことは書き出すことができた。 この1年間オレにあったことは。 平凡でそれなりに頑張った1年が、その日突然終わったということだけはわかった。 オレは毎日つけている練習記録を取り出した。 その日した練習内容を記録しているノートだ。 そこに分かる大体の日付で、ここから起こる出来事を書いておく。 大したことじゃない トレーナーの電撃結婚。 ジムの先輩の突然の引退。 友達が彼女の浮気で別れることになったこと。 この1年でした試合の結果。 対戦相手。 そういったものだ。 オレが本当に狂っているのでなければ、これは起こることだ。 いや、でも、オレが未来が分かってしまったことで、これらも起こらなくなるんじゃないか? なんだか頭はぐちゃぐちゃしてきたが、とにかく、書き出した。 そして。 アイツに会うことをきめた。 最初にしたことは電話をかけることだった。 10年前と同じ電話番号が繋がるとは思えなかったけれど、とにかくそうしてみた。 真夜中の0時を過ぎていたが電話をかけることにした。 なんでもいい。 本当ならアイツの家に直接押しかけたかったが、それはさすがにやめた。 まだアイツが実家にいるのかも分からないし、アイツがオレを覚えていないなら、アイツの家族は絶対にオレをアイツに会わせないだろう。 下手すれば警察を呼ばれるだろう。 アイツが自分で思い出し、オレを求めるなら別だとは言われる。 だが、せっかく息子が世界を取り戻したのに、危険を冒したい親はいない。 オレだってそこは賛同したからアイツから離れたが、世界が終わると知ってたら、それが後1年だと知ってたら、もう話は別だ。 あいつが思い出して。 それでフラれるならいい。 でも、思い出して、オレを・・・。 とにかくチャンスがあるのなら。 チャンスが無くてもだ。 思い出して貰えなくても、だ。 オレはアイツともう一度会いたかった。 繋がらないと思いながら、夜中に携帯を握りしめた。 本当に忘れた? 本当は思い出してても、オレのことが黒歴史になってるのかもしれない。 色々思ったが、ほら、オレは顔が良いだけじゃない。 顔がとても良いだけじゃない。 オレには勇気があるんだ。 アイツに世界を与えたことは後悔してない。 でもな、その上で後1年しかないなら、アイツが欲しい。 終わらない無限の可能性があると思ったからオレはアイツを手放した。 そうじゃないなら、オレはアイツが欲しいんだ。 いや、ずっと欲しかった。 今、アイツを手放さなくても良い理由をオレは手にいれたんだ。 もう一度。 もう一度、アイツに。 勇気がオレをそうさせた。 オレは震える指のせいで上手く操作が出来ず、何度も違うヤツに電話してしまい、夜中に何度も起こされたソイツに怒鳴られたりしながら、やっとそこに電話をかけた。 携帯は。 呼び出し音を鳴らす。 泣きながら震えた。 知らない人間から電話がかかってきたでないよな、とは思った。 でも。 「・・・はい?」 低く深く響く声。 忘れられない声がした。 アイツだった。 10年ぶりの。 アイツの声だった。

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