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巻き戻し 4
オレは一時間も早く来ていた。
ソワソワ落ち着かない。
髪を触ったり、服を引っ張ったり、ソワソワしてる。
オレの服、変、なわけがない。
オレの髪、変、なわけがない。
まあ、チャラいのは認めるが。
まあ、100歩譲って、例え変だったとしても、だ。
オレののルックスは完璧だ。
なんせとても顔がいいんだからな。
イケメンボクサーとして、まあ限定された界隈ではあってもオレは人気がある。
モテる。
まあ、ボクサーでなくてもオレはモテるけどね。
常に女の子達にきゃあきゃあ言われてる。
まあ、長く女の子達に触れたりはしてないけどね。
オレの素性をしらない、格闘技なんか1ミリも興味もない限定されたゲイのセフレ達とこっそりセックスしているけどね。
彼らにだってオレの見た目は大人気なのだ。
ゲイで無くても男でも、オレの外見には嫉妬こそすれ、おかしいなんて言わないのは決まってることだ。
だから。
だから。
気にすることなんかないのに、オレは落ち着かなかった。
世界の誰もオレを変だなんて思わなくても、たった一人に変だと思われるのが嫌だったんだ。
まあ、あの頃でもオレの外見なんてアイツにどれだけ意味があったんだろう。
この世界に存在を実感できたのはオレだけだったというだけで、アオツがオレに執着したのはオレの外見のせいじゃない。
オレのせっかくの外見の良さも、こんなに良くても、それがアイツにはどれだけ意味があるだろう。
今のアイツならオレ程じゃないとしても、良い外見の男も女も選びたい放題なはずだった。
外見だけでアイツはオレに惹かれたりはしないかも。
そもそもアイツに美的センスがあるのかは謎だった。
今のアイツにはオレと会うの初めてなはず。
やたらと外見がいい、不審な男であるオレを、どう思うんだろう。
そもそも、今もアイツは男がイけるのか?
オレを女では足りない身体にしておいて。
そこは恨みがましく思う。
アイツとの約束の時間までオレが何をしていたっかって?
アイツのことを考えてオナニーに狂ってたんだよ。
アイツとしてた時のことを思い出しながら。
今のアイツがオレとセックスしたいなんて思いもしないだろうに。
他に人間のいない世界で生まれて初めて会った人間に感情の全てをぶつけた結果があのセックスだったんだ。
もうあんな風に欲しがられないと分かっていても。
アイツと会うと思っただけでオレの身体は欲しがった。
熱い肌。
熱い舌。
熱い指。
熱い舌。
熱いペニス。
全部欲しい。
欲しかった。
また。
欲しがられて抱かれたかった。
奥まで抉られて。
たっぷり出されて揺さぶられて。
「先輩・・・可愛い」
そう何度も囁かれたかった。
そう思うと堪らなくて、デカいディルドを突っ込んで、自分でそれで穴を慰めずにはいられなかった。
久しぶりに本気で気持ち良かった。
アイツに会えると思っただけで。
貪るようにセフレ達としてきたセックスより、このオナニーのが良かった。
でも。
アイツとのセックスなんて、有り得るかどうかも分からないわけで。
こんなに待ちきれなくてこわいことはなかった。
オレはアイツに愛されたい。
世界が終わるまでに。
それだけが望みだった。
そして、アイツが時間通りに現れた。
喫茶店の木の扉をあけて店に入ってきた。
10年の月日の後で。
無愛想で剣呑で。
オレにはみせなかった顔で。
おもわず立ち上がったオレは震えていたかもしれない。
アイツを見て立ち上がったからアイツはオレだとわかったんだろう。
それはアイツがオレを覚えていない証拠でもあった。
アイツはオレを不可解そうに目を細めて見た。
鋭い、見透かすような目にオレは怯えた。
アイツはオレに何を見ている?
オレを初めて「見つけた」時の目とは全く違って窺いしれない視線だった。
アイツはゆっくりをオレを見つめながら近づいてくる。
怖かった。
獲物に近付く獣のように。
「初めまして、というしかないですね、今の僕からは」
オレの前に立ったアイツはそう言った。
巨大な恐ろしく美しい男。
オレの恋人とは違う、男だった。
それがわかった。
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