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プラトニック 1

来た。 すぐに来やがった。 「なんで走って来るんだよ、2駅だろ、まだ電車あるし。自転車とか、それとか車とかもあるだろ」 オレは汗だくになって息を切らしているアイツに水の入ったコップを渡していた。 にしても速い。 走って来ているとは思えないスピードだった。 こいつ陸上の高校記録もってたな、そう言えば。 短距離だったけど。 この巨体が凄まじい速さで疾走する姿はぶっちゃけ怖い。 しかも憤怒の形相を浮かべているのだから。 「ヤクザはどこです。どこにいるんです。手足を折ってから首をねじ曲げてやる!!」 世界有数の格闘家が言うとかなりヤバイ発言だ。 ヤクザでも泣いて謝る。 アイツはコップは受け取ったが飲もうともせず、部屋を見回す。 鋭い目で。 この部屋にヤクザが隠れているかのように。 「いや、電話でも言ったけど、ヤクザはここにはいないから」 オレは言い聞かせる。 だが聞いちゃいない。 元々話をきかないやつだからな。 「殺してやる。何回でも何回でも殺してやる。千回でも万回でも殺してやる!!」 アイツは吠える。 「いや、普通1回しか殺せないからね?」 コイツならやりかねないなと思いながら言う。 アイツは次の瞬間オレを見て何かを考えた。 間合いが瞬間で詰められた。 いや、このボクサーのオレがまったく反応出来なかった。 化け物だ。 アイツはオレの頬に手を伸ばしていたが数ミリ先で止まってた。 触れるのに耐えているのがわかる。 腰に回された腕が、数ミリ先で止まっているのもわかる。 許可がなければ触らないと言ったのを守っているのだとわかる。 「何か・・・されてませんか。ケガしてませんか?」 震える声と震える瞳。 どきゅんときたよ。 可愛いすぎるだろ。 何こいつ。 大型犬の可愛さなんだよ、わかる? 「ないない、全くないから。仕事先で色々あって、でも大丈夫だから」 オレは言う。 胸をドキドキさせて真っ赤になりながら。 「あなたの仕事ってガソリンスタンドでしょう。なんでヤクザが? 」 不思議そうに聞かれて、今日の出来後を話そうと、して、ふと思う。 オレ、コイツにオレの仕事について話したっけ? いや、してない。 そこまでの会話はまだ何もしてないぞ。 セックスはたくさんしたけどな!! 「・・・なんでオレの仕事について知ってんの? 」 そこは素直に聞いた。 アイツは黙って目を逸らした。 だが、オレはアイツが返事をするまで沈黙する。 「・・・・・・すみません、今日興信所の方に」 なんかとんでもない言葉が出てきたぞ。 「お前探偵使ってオレを調べさせてんの!!!」 オレは驚愕した。 怒鳴っちゃったよ。 「だって僕も忙しいから・・・」 アイツの言い訳がおかしい。 自分で調べればいいわけじゃないぞ。 「知りたかったんです!!あなたのことが!!少しでも!!」 ストーカー気質を全開にして、世界的スーパースターが吠えていた。 オレは頭を抱えた。 まあ、コイツはたった一人の世界から、沢山の人がいる世界に行ったところで、この思い込みの強さは治らないのか、と妙に納得した。

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